エーガ愛好会 (348) サンセット大通り    (44 安田耕太郎)

名匠ビリー・ワイルダー監督作品の中でも人気が高い1950年公開の「サンセット大通り」(Sunset Boulevard)をNHK BS放映で初めて観た。ワイルダー監督のベスト6映画は順不動だが、1. お熱いのがお好き、2. 情婦、3. アパートの鍵貸します、4. サンセット大通り、5. 深夜の告白、6. 第十七捕虜収容所とのこと。「麗しのサブリナ」「昼下がりの情事」も上位にランクされている常連だ。挙げた映画の内「サンセット大通り」以外は全て観ている。どの映画も流石ワイルダー作品、観応えがあった。

抜擢された31歳のウイリアム・ホールデンは、その後もワイルダー監督映画「第十七捕虜収容所」(1953年、アカデミー主演男優賞受賞)、「麗しのサブリナ」(1954年)に出演、監督お気に入りの男優の一人だったのだろう。ホールデンは1950年代にはワイルダー監督作品以外にも「喝采」「慕情」「戦場にかける橋」「スージー・ウオンの世界」など名だたる映画に出演、戦後のハリウッド映画全盛期を彩った男優であったのは間違いない

さて映画「サンセット大通り」(Sunset Boulevard)だが、映画の舞台となった大通りはロサンゼルス市内北部を東西に太平洋岸サンタモニカまで貫き、高級住宅街として知られる地域を通り沿いに抱える。その一角の豪邸で一人の男が殺害され、背中に銃弾を撃ち込まれた死体がプールに浮いているのが見つかる

この豪邸は映画「市民ケーン」(1941年)の新聞王ケーン(オーソン・ウエルズ主演)の大邸宅ザナドゥ(Xanadu)を彷彿とさせ、映画開始早々何かしら不気味さを感じさせた。殺された男は売れないB級映画の脚本家ジョー・ギリス(ウイリアム・ホールデン)と判明。嘗てサイレント映画時代に一世を風靡した往年の大女優ノーマ・デスモンド(グロリア・スワンソン)との間で起こった悲劇を描いたハリウッドの光と影を活写したフィルム・ノアールの傑作。
物語はその事件の半年前に遡って展開する。貧窮するしがない脚本家ジョーは借金取りに追われ、一昔前のサイレント時代の大女優ノーマの豪邸に偶然逃げ込む。幽霊屋敷のような寂れた豪邸にはノーマと執事マックスの二人が過去の栄光に取り憑かれたように住んでいる。ノーマはジョーより20歳ほど歳上の中年女性で未だ過去の栄光を忘れられず銀幕への復帰を目論み、ジョーが脚本家だと知った彼女は自身が主演を熱望する映画「サロメ」の脚本の手直しを依頼し、彼を屋敷に住まわせることにする。ジョーも彼女の機嫌を損なわぬように努めるが、それが段々と重荷になっていく。
この映画はジョー・ノーマ・マックスの三人を巡る人間ドラマと言っていい。マックスはノーマの最初の夫、元映画監督でもありノーマをスターダムに押し上げた恩人で、自ら頼んでノーマの召使を買って出て真摯に仕え、ノーマが女優復帰の夢から覚めないように必死に振る舞う。彼のこの辺りのニヒルな演技は見応え充分だ。マックスはノーマとの曰く付きの関係をジョーには後日知らせるが、ジョーは驚愕する。
マックス役のエリッヒ・フォン・シュトロハイムはユダヤ系オーストリア人でアメリカへ移住して活躍、映画監督・俳優として映画史上特筆すべき異才であった。彼の怪奇的演技はこの映画の見ものであった。1937年公開の、印象派の画家ルノアールの次男ジャン・ルノアール監督のフランス映画ジャン・ギャバン主演「大いなる幻影」を観たが、ドイツ将校として彼独特の怪奇的演技が際立っていた。同じ雰囲気で「サンセット大通り」でも主役二人に劣らぬ存在感溢れる重要な脇役を演じていた。
Erich von Stroheimエリッヒ・フォン・シュトロハイム(Erich von Stroheim、1885年9月22日 – 1957年5月12日)は、オーストリアで生まれハリウッドで活躍した映画監督俳優。映画史上特筆すべき異才であり、怪物的な芸術家であった。徹底したリアリズムで知られ、完全主義者・浪費家・暴君などと呼ばれた。また、D・W・グリフィスセシル・B・デミルとともに「サイレント映画の三大巨匠」
と呼ばれることもある。

(船津)観ました。以前も観てグロリア・スワンソンのあの眼の凄さが焼き付いていますね。無声映画からトーキー映画への変遷は他にもなんかそんな映画在りましたが、この映画は流石ですね!

(編集子)ホールデンは小生も好きな男優の一人だが、確か、晩年は恵まれず、悲惨と言えるような最期だったと記憶しているけど人違いか? なんだかこのエーガのテーマそのものだったようにも思えたんだが。