専門医は「物忘れ」を訴えてきた患者さんにどんなことを調べる?
最近、テレビでの「MCI」のコマーシャルのせいもあり、外来に家族に連れられて「物忘れ」を訴えられて来られる方がますます増えています。「MCIって」と思われた貴方! 今までこの駄文を読まれたことはないですか??
物忘れがある場合は 大体 精神科医か脳神経内科医を受診される方が多いようです。その2つの科が認知症治療の大半を担っているのが本邦の現状です。脳神経外科医は頭の手術が専門ですし(お年を召してもう手術を諦められた方は別としても)、一般の内科の先生方は認知症の診断と治療に関しては、十分な知識をお持ちでないことも多いからです(若しこれをお読みの一般内科や脳外科の先生が居られたらごめんなさい。でもこの考えは例外を除いては 間違っていませんよね?)。
これらの専門医のところではまず詳しく症状の経過、何時から気になる症状があるか、いままでどんな病気をしたか、お酒は? タバコは? 便通は? 夜、何回トイレに起きるか? 今服用している薬は? などなどをしつこく訊かれるでしょう。その点を省略される病院があったら、転院されることをお勧めします。
問診がすんだら、肝硬変とか腎機能低下、甲状腺機能低下などでも認知症様の症状が出るし、合併症治療も必要ですから、一般的な採血・検尿は必須です。最近撮っていなければ胸のレントゲン、心房細動や心不全のチェックもやりたいですね。持続性の心房細動(心臓がバラバラに打つ病気)は認知症の大きな誘発因子であることは最近沢山の報告があります(知らない医者もおられますが)。
同時に行うのは、頭部のMRIと脳血流検査。MRIが取れない人はCTで代用しますが、CTはMRIより感度ははるかに落ちます。やらないよりマシという程度。 脳血流検査で血流低下があれば、その部位に注目。低下のパターンにより認知症があってもその原因が異なります。当然、治療法も多少異なります。
次にこれも必須なのは、神経心理テストとも呼ばれる検査。キチンとした病院ならば医師自身か専門の技師さんが行ってくれます。MMSEとかCDRと言われる検査です。MMSEは万国共通のテストで、100から7を何回も引かされたり、物の名前を3つ言われて3分後にまた訊かれたり、絵を描かされたり、可なり屈辱的と思われる方もいるかもしれません。まあ我慢、我慢。検査中に怒ったりすると、症状の一つに加えられたりするからご注意を。この検査は30点満点です。最低、27-28点はとって欲しいな。30点が理想だけれど。 CDRはパートナーとか本人をよく知るご家族からも様子を訊く検査で、これが行われないと現段階では最新の治療は原則受けられません。どなたか身近な方に一緒に行っていただく必要があります。普段から 自宅では「いい子」でいる必要がありそうですね。
これらの検査を全て総合して主治医は病気か否か、認知症があるならその程度と診断名(原因)および治療方針を考えます。ただ認知症かあるか否かだけの診断なら、頭が痛いと言ってきた患者さんに、「それは頭痛ですね」と医者が言うようなものです。キッチリ認知症の有無のみならず、その原因を推測して、さらに生活指導や治療方針を考えてくれるのが本当の専門医なのです。
白衣を着ていれば、誰でも信用してしまう時代は終わりました。