エーガ愛好会 (304)ウイル・ペニー   (34 小泉幾多郎)

西部劇とは、無敵のガンファイターが主役という従来の常識を一掃し、あの「大いなる西部1958」「ベン・ハー1959」の筋骨逞しいヒーロー像の主役チャールトン・ヘストンが、盛りを過ぎたカウボーイの人生の悲哀を静かで清らかな恋を織り交ぜて演じ、ウエスタン映画史上に大きな影響を与えた味わい深い人間ドラマ。

監督脚本はこれが長編映画デビュー作のトム・グライスで、サム・ペキンパーが1960年に制作したTVシリーズWesternerでグライスが監督脚本を手掛けたLine Campを基にしたとのこと。最初から最後まで素晴らしい景観を背景に映画は展開される。冒頭テキサスからカンザスへと大平原をキャトルドライブしてきた大平原の描写、その後遠く白く雪化粧した山々の描写から、近くは岩々、やがて冬になると雪に覆われた描写とその景観の流れを見事に写し込んだ素晴らしい撮影はルシアン・バラード。ロケ地はカリフォルニア州インヨ国立森林公園とのことで、岩のアーチ、石の柱等フォトジェニックなスポットが多いとのこと。音楽は有名な「ローラ殺人事件1948」他100以上の映画音楽を作曲したディヴィッド・ラクシン。音楽自体は画面には合っていたと思うが、冒頭と終幕の歌詞が映画内容にそぐわないように思われ、両者共必要なかったのではないか。

インヨ国立森林公園

キャトルドライブの帰り、腕の良いウイル・ペニー(チャールトン・ヘストン)は、更に行動を誘われながら、人が好いことに、どうしても一緒に帰りたい若者にその権利を譲り、別の若者ブルー(リー・メジャース)とダッチ―(アンソニー・ザーブ)と旅することになるが、鹿をどちらが撃ったかで、クイント(ドナルド・プレザンス)とその息子達ともめ、息子一人が死に、ダッチ―も大怪我をする。ダッチ―を運び込んだ牧場で、カリフォルニアにいる夫に会いに行くという母子に会う。この母キャサリン・アレンを演じるジョーン・ハケット、「夕陽に立つ保安官1971」では、泥だらけで樹に登ったり、じゃじゃ馬ぶりを見せつけたが、息子を躾ける理知的な明るい母親でありながらも、ウイルを手厚く介護するうちに、ほのかな愛情を覚えるといった好演を見せる。ウイルは一緒に来た二人に別れ、単身紹介されたフラットライアン牧場主ア

べン。ジョンスン、ちょい役とはいえ、編輯子のごひいき助演俳優

レックス(ベン・ジョンソン)に雇われ、人里離れた小屋の管理の仕事を任されたが、その途次、仕返したいクイント一家に襲われ、半死半生。この悪役に扮するドナルド・プレザンスの憎たらしさに息子の一人ブルース・ダーンも加わっていた。やっとたどり着いた小屋には、雪に阻まれて留まっていたキャサリン親子がいてウイルは手厚く看病される。お蔭で元気を取り戻したウイルはクリスマスの飾りやクリスマスソングを歌う等して、生まれて初めて家庭の暖かさを知った。しかし又もやクイント一家の襲撃で、ウイル、キャサリン共々言うがままになったものの、別れた仲間、ブルーとダッチ―、が助けにやって来たことから、銃撃戦の末、クイント一家を壊滅させ、牧場主アレックス一行もやって来た。

騒ぎは収まったが、これがウイルとキャサリン親子との別れの時でもあった。キャサリンから愛を打ち明けられたのだが、自分の人生を振り返ると、若者の時代から一人で生きて来たウイル、カウボーイ以外の仕事は出来ない。家族を守る生き方をしたことがない。年齢も50歳に近い。心の整理がつかぬまま立ち去るウイル。立ち去るウイルは、仲間のブルーとダッチ―と。見送るはキャサリンと息子。アレックス他フラットアイアン牧場の連中。キャサリンの息子がBye!と叫ぶ。「シェーン」を彷彿とさせる。

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キャトルドライブとは、数世代前に野生化した畜牛の大群を、砂漠や無法地帯を突破して物流集積地まで運送する業態です。アメリカ合衆国の西部開拓時代に盛んに行われていました。主にテキサス州の北部一帯からミズーリ州やカンザス州、ネブラスカ州の出荷駅まで送られ、カリフォルニア州方面や東部の都市へと鉄道で輸送されました.そこで、テキサスから、東部行きの鉄道の駅があるカンザスまで数百頭の牛を運ぶ “キャトル・ドライブ”が始まり、その仕事に従事する人を“カウボーイ”と呼んだわけです。 カウボーイが1回のキャトル・ドライブで稼ぐ額は相当なものだったらしいです。