エーガ愛好会 (302) 長い灰色の線   (44 安田耕太郎)

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巨匠ジョン・フォード監督がメガフォンを執った1955年公開の実在した人物の自伝を基にした伝記映画。題名からはいつの時代を題材としたどんな映画かは全く想像できないまま、初めて観た。

アメリカ合衆国の陸軍士官学校ウェストポイントの体育助教として50年間勤めたマーティ・マー軍曹(タイロン・パワー)は退職命令を受け取った。生徒として士官学校で教育し、今では大統領となったかつての教え子を訪ね、善処を依頼する。カメラはマー軍曹を正面から映し、大統領の姿は背面からで顔は分らず、大統領は誰なのか映画は教えない。だが、その時代は第二次世界大戦後、しかも映画の舞台はウェストポイント、しかも軍曹(パワー)と旧知とくれば、明らかにドワイト・アイゼンハワー大統領(任期1952~60年)だと分かる。旧友の大統領と会い、思い出話が始まる。その思い出話を辿るように映画の物語が紡がれる。映画公開は1955年、アイゼンハワー大統領の第一期目の任期途中だ。
映画では、陸軍士官学校在籍中の若きアイゼンハワーをジョン・フォード一家のハリー・ケリーJrが演じている。因みにアイゼンハワーは1911年にウェストポイントに入学、1915年卒業後 軍歴が始まる。ウエストポイントの卒業生には第二次世界大戦中のアメリカ軍の重鎮ダグラス・マッカーサー(日本統治GHQ総司令官)、北アフリカ戦線でナチスドイツを駆逐したジョージ・パットン将軍などもいる。
ジョン・フォードは、西部劇や自身のルーツであるアイルランドやアイリッシュ(Irish)を好んで描き、情感豊かな作風から詩情豊かな映像の詩人と評された。この映画でも主役の俳優はアイルランドに出自を持つタイロン・パワー。彼が演じるマー軍曹はアイルランドからの移民で、妻となる、やはりアイルランドからの移民でメアリー・オドンネル(O’Donnell、典型的なアイリッシュの姓)を演じるのは生粋のアイルランド人モーリン・オハラ、フォード一家の重鎮の一人、ワード・ボンドがマー軍曹の上官を演じている。

妻役のモーリン・オハラは、フォード監督

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お気に入りの秘蔵っ子で、強気で爽やかな女性役を多く演じているが、本映画でもそうだった。映画「リオグランデの砦」でジョン・ウェインの妻役でも勝ち気なしっかり者の役を演じていたのを想い起した。彼女出演の映画は、「三十四丁目の奇蹟」、「我が谷は緑なりき」、「リオグランデの砦」、「静かなる男」に続いて5本目だった。「三十四丁目の奇蹟」以外は全てジョン・フォード監督作品だ。彼女は芯の強い女性役が多い。本人もそんな女性だったのだろう。女優引退後はアメリカへ移住、2015年、アイダホ州の自宅で生涯を閉じた。享年95。

主役タイロン・パワー演じるマーティ・マーはアメリカへ移住後、ウェストポイントの給仕に雇われたが、失敗ばかりで、陸軍に入隊した。そこで上官に見込まれ、ウェストポイントの体育助教となった。その上官の家のメイドのメアリー(モーリン・オハラ)と知り合って付き合い、そして結婚した。二人は息子を授かったが、産後直ぐ亡くなり、彼女は酷く落ち込み、マーティも酒に溺れた。だが、士官学校の教え子の生徒たちは二人を励まし、二人は立ち直った。子宝には恵まれなかったが、愛情溢れる夫婦二人の幸せな生活であった。

(飯田)タイロン・パワーは確かに大根役者との評があった(特に当時の映画評論家)ですが、安田さんと同様に、私も彼を大根役者とは思っていません。

大柄で特に太い濃い眉毛の顔つきが、演技者としてはマイナスになっていた所があったのではとも思われます。特に悲しい顔や淋しい顔をしても、眉毛の濃さ太さで、そうは見えない?のではとか。

安田さんの挙げた以外に「怪傑ゾロ」(1940年)「黒ばら」(1950年)「壮烈カイバー銃隊」(1953年)などの他、アーネスト・ヘミングウエイの小説「陽はまた昇る」(1957年)はたびたび見る映画です。

(小田)安田さんの説明で背景が詳しく分かりました。又痛々しい軍隊の話かと思いましたら、前半の若い時代はお皿を沢山割ってしまったり、金槌なのに水泳の指導の為、吊るされたロープに縛りつけられ、プールの上をバタバタさせられたり…とコメディタッチでした。

後半、結婚してからは、思いやりある温かい物語になっていました。
ふたりの家は可愛らしく、ベランダで亡くなったばかりの妻に、愛用のショールを掛けてあげるシーンは印象的でした。ハドソン川と、その周辺の並木の風景と、広い敷地で繰り返される候補生達の灰色の上着に白のスラックスで整列した行進は清々しく、最後は又日本軍の襲撃でしたが、《Love me Tender》も何回か流れていたり、楽しく観ました。

(保屋野)掲題映画、これまで名前すら知らなかった映画でした。おかしな題名は、士官候補生の軍服がゲレーで長い線はその隊列のことだそうです。

ウエストポイント(陸軍士官学校)で50年務めた体育助教の回顧録で、夫婦、親子、師弟等の愛の物語・・・皆さんの評価もまあまあのようですね。

皆さんののコメント通り、士官候補生の隊列行進のシーンが印象的でした。「ラブ・ミー・テンダー」もご愛敬でした。私も、そこそこ面白かったのですが、名作に必須の「感動」や「余韻」はあまり感じられないエーガでした。

惜しい所があります。折角、士官候補生の中に、アイゼンハワー、マッカーサー、パットン、ブラッドリー等のビッグネームがいたのですから、彼らのエピソード等を入れれば、もっとワクワクする面白いエーガになったのではないでしょうか。最後に、「地上より永遠に」では、モンティー、ランカスター、シナトラ、カー、リード等の魅力ある俳優が「目の保養」になりましたが今回のタイロンパワーとモーリン・オハラは美男美女ではありますが、少々地味でオーラが無く目の保養とまでは行きませんでした。