システム障害という災害

僕が今使っているPCはソニー製の VAIO というやつである。会社を辞めて、初めて自分でPCというものを買った時の興奮というか夢と言えば大げさだが、まだ PC そのものが今ほど常識化されていなかったころだったから、それなりに大きなものだった。第一号はモデル名は忘れたが富士通製の、外観もスマートなコンパクトなものだった。その後、今まで、富士通、DELL, 最後にHPと乗り継いできた。

かたや、やはり会社を離れ、社有車、という恩恵が無くなったために急に自身の問題になったクルマについてはダットサンの中古から始まって、日産、三菱、ホンダ、いすず、スバルと乗り継いだがトヨタだけは乗っていない。例によって合理性もへちまもないのだが、なんせ、最大手、というものになびくのが嫌いだかららしい。

ソニーは今更言うまでもなくエレクトロニクス業界のジャイアントだが、ことPCにかけては業界においてはフォロワーの位置にある。なんでこの機種なのか、と言うとそれはクルマのときの天邪鬼的発想からではなく(しいて言えば、NEC製を使ってこなかったのはHP時代、どう考えても売れるはずのないHP150なんてものを担ぎ、行く先々で我々を足蹴にした憎きPC98の影があったかもしれないが)、近くにあって何かと言えば頼りにしている ”PCデポ” のエンジニア S君の意見に共鳴したからだ。

何台目かに乗り換えたいと相談したところ、彼のアドバイスは ”PCについては、”おカネのある大メーカー製はお勧めしません” という奇妙なものだった。(これは街の人たちのご相談やらトラブルシュートに専念してる人間の狭い了見ですけど) と彼は言うのだ。”大手メーカーはお金があるから、基本ソフト(OS)の共通性は維持したいがそれに自社に都合のいい改良をくわえて最終製品の高度化をはかろうとします。それに比べるとソニーはお金がないから(彼が言ったので、小生が言ったのではない)そういう冒険はしません。そうすることで、最終的な製品が多少劣っても、OSの更新があった時の対応は、それに手を入れていませんから大手の場合に比べて易しく確実になりますからね。なんせ、いくつあるかわからないアプリのメーカーが着実にその更新に対応していなければならないわけですから” というのが彼のァドバイスだった。

S君の見方は、一時、今とは比較にならないほど単純なものではあったけれどプログラム開発、それにともなうトラブルの追求、という事をやったことのある自分には十分納得できる論理だった。自分が対応しなければならなかったものはあくまで自分か、あるいは共同開発をやった仲間のアルゴリズムを追っていく事にすぎなかったが、いまではいろんな意味での共通化が図られた、そのメリットの逆で、多くのソフトメーカーが書いたものの集積で一つのシステムができる。それはいいのだが、ひとたび,その一部が更新されたり誤動作をしてしまった時、その改修作業は大変なものになるだろうことは言わば肌身に感じることができた。まして、我々街の素人が購入した、通称アプリ、と呼ばれる、メーカーからすれば他人の作ったシステムでトラブルが発生したとき、それの追求は複雑、かつ広範にわたってしまうことが多いはずだ。

(その点、)と彼は言うのだ。(”お金のないメーカー” はOSに手を入れるなんてことはしませんから、もっぱら第三者の書いたアプリの問題に直面するものの立ち場から言えば、対応がしやすいんです)。関連技術にたけた人ならば笑ってすますであろう ”街のエンジニア” の正直な述懐が、またまた天邪鬼精神、に共鳴して、小生は彼の言うとおり、”おカネのないソニー” 製品に乗り換えて、今日まで満足しているというわけだ。

何でこんな話をしたか、と言えば、昨日今日と新聞テレビをにぎわしている世界的規模のシステム障害のためだ。マイクロソフトの技術が最深部にあり、その上に幾重にも重なったソフトウエアの壁のどこかであいた小さな穴が、そもそもはプラスに働くべき相乗効果のゆえに、解決が困難になった、その典型的な例だろう。同じ影響を受けている航空業の世界では、日本はそれなりに解決したという。それならなぜ、同じことが起きているはずの欧米では解決しないのか。何重にも重なった、”アプリの層” のどこかで、発生したトラブルに対応する仕掛け、というのが国や地域での特殊性を反映して同一的に対応できないからではないのか。それは (お金がある)ところと(お金のない)ところの差か?

今回のことは、現在のIT社会が根源的に持つ(というより持たされてしまった、と言うべきだろう)脆弱さ、とほうもない危険を惹起しかねない恐ろしさ、を露呈した、というか、全世界に投げかけた警告、なのだと僕は思うのだが。

(HPOB 安斎)別会社になる前のSONYのVAIOは他のお金のある大会社と同様にプラスアルファの余計なことをOSやハードでやっていたのでそれなりに使いにくかったことを思い出しました。別会社になってお金が無くなってからは使いやすいPCになってきましたが・・・