エーガ愛好会 (268) 荒野の用心棒  (34 小泉幾多郎)

マカロニウエスタンは、黒沢 明の「用心棒1961」をセルジオ・レオーネ監督が独自に解釈、西部劇に焼き直した1964年に始まったと言える。60年代だけでも約300本が作られたという。その派手なアクションとどぎつい残虐描写、シニカルな主人公のキャラクターが世態にマッチし瞬く間に世界中を席巻した。クリント・イーストウッドが主人公の髭ずらに葉巻を咥えたポンチョ姿がマッチした一匹狼のふてぶてしさの姿で乾坤一擲イタリア西部劇に活躍の場を見出した。

魅力的なのは、巨匠エンニオ・モリコーネの音楽、カンツオーネの伝統を受け継いだ数々のサウンドが心地よく、イーストウッドの動きに反映する。このマカロニウエスタンの原点たる作品の大ヒットに続き、この三者によるドル3部作が、同じ監督、主演、音楽の三者で「夕陽のガンマン」「続夕陽のガンマン」が作られた。

物語は、メキシコ国境に近い町に流れ者ジョー(イーストウッド)が現れる。酒場の主人カルロス(ホセ・カルヴォ)棺桶屋ビリベロ(ヨゼフ・エッガー)と知り合う。この町では、ロホ兄弟とモラレス家が対立し血なまぐさい争いを繰り返していた。ジョーは町民の苦しみを知り、両者を戦わせ自滅させようとした。ロホの弟ラモン(ジャン・マリア・ヴォロンテ)はマモラレス家に焼き討ちをかけモラレス家を壊滅させるという事件を起こす。またラモンがマリソル(マリアンネ・コッホ)という子持ちの女を自分のものにしようと監禁していることを知ったジョーは手下を始末し母子を逃がしたが、ラモンに見抜かれ、激しいリンチを加えられる。このジョーへのリンチ、モラレス家の焼き討ちたる残酷描写がマカロニウエスタンの特徴と言われた。その後ジョーは、やっとの思いで身を隠せたが、酒場の主人カルロスが通りの真ん中でリンチを受けていることを知り、町の広場へ姿を現す。

黒沢用心棒との違いを詮索する程の余裕はないが、この母子を逃がすきっかけとして子供を使った人情噺への仕立て上げや最後のジョーとラモンの決闘シーンがオリジナルを超越した様相を見せる。相手の射撃の正確な狙いを見越して使われた防弾チョッキによる至近距離からの一斉射撃をものともしないジョーの大逆転勝利へのからくり、ポンチョをとるとそれが現れる。平和を戻した町をジョーは静かに去る。こうして「荒野の用心棒」はマカロニウエスタンの原点となった。