乱読報告ファイル(45) 高橋杉雄 日本で軍事を語るということ

最近ウクライナ問題などの関連テレビ番組で常連になっている著者は、この本を ステートクラフト という用語を定義することから始める。

この言葉は国家が存在するうえで、国として持たなければならない絶対的な指導原理、すなわち政策を立案し、展開していく、技巧(クラフト)であり、外交力、経済力、軍事力という三つの形で現れるという。長い間日本において軍事はある種のタブーであって、政策論として幅広く議論されることはほとんどなかったが、それは第二次大戦後の日本が安全保障を米国に依存しきっていたために、この問題を考えなくて済む時代が長くつづいてきたからだ。しかしグローバルなパワーバランスは変化し、米国の軍事力ももはや絶対的なものではなくなってきた。しかも日本周辺に安全保障上の対立が事実として存在する。すなわち日本が当事者意識を持たなくてはならなくなった。日本人は善とか悪とか言ったことではなく、否が応でも ”ステートクラフトとしての防衛力(軍事力)” を価値中立的に考えなければならなくなったのだ、と述べる。その意味で、国民がこの問題を考える上で必要となるであろう事柄を解説したのがこの本である。

そういう意識で書かれた本書は米ソ対立の冷戦状態が凍結されていた平成の時代はそれなりに世界平和が曲がりなりにも維持されていたが、今回のロシア・ウクライナ戦争でそのグローバルなバランスは崩壊しつつあるし、米中の対立は冷戦を再度もたらすかもしれない、という危機意識の中で、”戦争”というもののいわば方法論がかつての米ソ対立時代のものとは様変わりしている、という事実を明快に解説している。なんとなくわかっている気でいたが、戦闘そのものがすでにエレクトロニクスの闘いであるという現実や、一つびっくりしたのだが、米国と協調しているいわゆる西欧諸国群の中で、人工衛星を打ち上げる技術があるのは米国、フランス、それと日本だけだというのだ。

このような状況の中で、日本が備えるべき防衛力とはどれくらいの規模であるのか、外交と防衛とはどういう関係にあるべきなのか、そして最後に核抑止はどうあるべきなのか、と言った点について、本書は明快な解説をしてくれる。テレビで一種のショウのように(怒られるかもしれない発言だが)なってきているウクライナ(これからはプラス、イスラエルか)問題解説番組もこの本で得た知識で見ていくともうすこし事情がわかってくるような気がしている。

 

(36 大塚文雄)高橋氏は視点で語るのではなく、視野で語り、視聴者が考える事を促してくれる。ロシアのウクライナ侵攻が発見してくれた貴重な人材と思います。