最近よくお目にかかる地政学、という分野。わかっているようでわかっていない用語の一つなので、なんか手っ取り早い本はないか、と気軽に買った1冊だが、著者が予備校の先生だけに手慣れた編集であり、要点がわかりやすく、いい入門書だった。
第一に、地政学そのものの論議よりも、近代史、とくに日韓関係やロシア、中国との関連などの解説が貴重だ。韓国という国は地政学的用語でいえば半島国家であって、半島の付け根の先にある大国の影響を避けられない、という説明はなるほど、と納得するが、さらに、この分野では高名な学者だそうだが,マッキンダーは現在のヨーロッパ地域が巨大な半島とみなして、この、半島国家と同じ運命にあると論じたという。この場合、”欧州半島” の付け根がバルト三国・ベラルーシ・ウクライナであり、古代にあってはマジャールやモンゴルの、くだってオスマン帝国の、現代ではロシアの影響を受けてそのたびに内部の混乱を招いてきた。このありようは朝鮮半島のそれと同じだというのだ。
そのために内部的に混乱し、片方では先端技術に優れた英国やフランスはこの付け根内部、すなわち現在で言う中東やアジアに侵入し、自国の論理だけに従って地域の分割占有を断行した。有名なサイクス・ピコ協定によるアラブの分断(映画 アラビアのロレンスの背景)、インド亜大陸の占領、さらには単なる資源獲得だけを目的としてしゃぶりつくしたアフリカ大陸の混乱など、おのおのの地域の民族や文化を無視した、地政学的に見て筋の通らない実情無視の国家分断が現代のこの地域に絶えない戦乱の原因である、とする。イデオロギーや経済政策の問題ではなく、まさに地政学的な観点で理解できるというのだ。
現代は米国対ロシア(多分中国)の構図で考えられるが、それはその前にあった英露の対抗を引きずったもの(米国が表舞台に出る結果になったのは第二次大戦への参加)であることが明快に説明されており、現在なぜウクライナがロシアにとってそんなに重要なのか、と言ったことも解説されている。さらに日本人として納得するのは、一部の日本人が例によって ”第二次大戦の結果の総括と謝罪をドイツはやったが日本はやってない” と自嘲するのがいかに現実を知らないか、ドイツは今までになにをしたか、という事実の解説でもある。
地政学、というものそのものを理解する前に、近代史の総括という意味で小生には非常に参考になった。それと同時に、われわれがいかにお人好しでわきが甘い民族であるかということを改めて認識させられた。結論的に小生が納得したのはわが国が島国であることが地政学的にみて絶対的有利な位置にあることだった。
それほどの大部でもなく、文庫版820円は安すぎるくらいの価値があった。一読をお勧めする次第。