エーガ愛好会 (178) セーブ劇固め打ち

(小泉)「明日なき追撃Posse1975」はカーク・ダグラスが製作、監督、主演した西部劇。音楽に、あの「アラビアのロレンス」のモーリス・ジャールを起用しているが、これはという旋律もなく期待外れ。物語もカーク・ダグラスが西部の主人公連邦保安官ハワード・ナイチンゲールに扮するのはいいのだが、次期上院議員の椅子を得るため、精鋭の部下5人を引き連れ、各地に出没するアウトローたちを殲滅させ、その活躍を専属のカメラマンに撮らせ新聞社にばらまかせる。要は民衆の前では、自己犠牲、人道主義を熱弁しながらも裏では利己的野心を達成しようとする偽善男を演じている。名優だけに、その野心に嵌った熱演ぶりを示すので、西部劇というよりはその舞台を借りた強烈な社会風刺ドラマみたいになってしまたのだった。ダグラスは「チャンピオン1949」でエゴの塊のようなボクサー、「悪人と美女1952」で野心的プロデューサー、「炎の人ゴッホ1956」でゴッホを演じ、3回アカデミー賞候補になったが無冠、1996年に名誉賞を受賞している。西部劇は11本演じている。

連邦保安官ナイチンゲールは、その名声と野心を達成すべく名高い無法者ストロホーン(「11人のカウボーイ1971」でジョンウエインを殺したブルース・ダーンが扮する)を捕え、その名声を揺らぎないものにしようと試みる。組織化された5人の部下と共に隠れ家を急襲し、逮捕するも列車で護送中脱走され、しかも結果的には、列車での争いから、逆にナイチンゲールの方がストロホーンにより手錠をかけられ、逆に人質になってしまう。このことが町民たちにナイチンゲールの信頼を失墜させることになり、ストロホーンがナイチンゲールの命と引き換えに、部下の5人に町のカネを集めさせ,そのカネを5人の部下に分配させると、部下たちも大金の魅力に無法化してしまう。要は強いものには平気で裏切る人間の醜さをまざまざと描いているということか。西部劇らしいスカッとしたところは見当たらず。

(編集子)この放映は知っていたが、なんとなく合わせたチャンネルでやっていた マグ二フィセントセブン のほうを見てしまった。

Magnificent Seven はかの 荒野の七人 として紹介された,黒沢明の 七人の侍 をリメイクして大ヒットとなった名作だが、同じタイトルで3本、西部劇が製作されている(荒野の七人4部作、ともいわれる)。原作の主演だったユル・ブリナーが再登場し、スティーブ・マクイーンの役をテレビのシリーズもの ララミー牧場 のロバート・フラーが演じたのが第二作、第三作は主演がジョージ・ケネディ、第四作はマカロニウエスタンで売り出したリー・ヴァン・クリーフである。この4作はすべて見ているが、この作品が5部目にあたるかどうかは見方によるようだ。無頼のガンマンが七人、義侠心から立ち上がるという筋は同じだが、今回は主演が全4作と違うのは主演がデンゼル・ワシントンとという黒人であることとだけだと思っていた。だから見るまで知らなったが主人公の名前がチザムであり、カンサス州リンカーンから来た、という設定は面白かった。この名前は先回小泉さんがまとめられたヤングガンの付けたしとして紹介しておいたように、リンカーン・ウオーの中心人物のものだからだ。

ジョン・チザムは実在の人物で、チザムトレイルとよばれるテキサスの牛をカンサスまで運ぶルートの開拓者である(さらに話がとぶが、ジョン・ウエイン出演でかのモンゴメリ・クリフトが初めて出た西部劇として知られる 赤い河 のものがたりはこのチザムトレイル開拓の話をかたどったのだという説もある)とされる人だし、この作品の設定とは全く違うのだが, 言ってみれば推理ドラマの主人公を宮本武蔵と名づけるようなものかもしれない。しかし作品そのものは平凡で、圧倒的に多いバッドガイを迎え撃つ趣向もヴァン・クリーフ版の焼き直しだし、残念ながら典型的Bクラスウエスタンに終わったのが期待外れ。今週はドクター小泉同様、主役のネームヴァリューにつられたセーブ劇党には悪日だったようだ。

(菅原)誠に遅まきながら、クリント・イーストウッドの「ペイル・ライダー」(1985年)を、CATVで見ました。詳細は、確か、小泉さんが、秀逸な感想を投稿されていたので触れません。

文句なしに、滅茶苦茶、面白かった。兎に角、イーストウッドがスゲーカッコ良かった。それに、最後、それこそ神出鬼没で、悪者をやっつける、これぞ正に西部劇。理屈抜きってのが最高。「許されざる者」は、そう云った意味で馴染めなかった。「ペイル・・・」のイーストウッド、この時、55歳だから脂が乗り切っていた。