エーガ愛好会 (63) ニューシネマパラダイス (44 安田耕太郎)

ストーリーの時代は第二次世界大戦直後(多分1940年代後半)から、この映画が制作された80年代後半の40年間くらいの期間に亘っている。舞台は貧しいイタリア・シシリア島の架空の「ジャンカルド村」。パレルモから南へ50キロ離れた内陸の僻地パラッツオ・アドリアーノ村で撮影された。この村から西へ15キロ離れた所に映画「ゴッドファーザー」のマフィアの故郷コルネオーネ村がある。映画に登場する村の広場の映画館は撮影用に建造されたという。今でも、村には世界中から「ニュー・シネマ・パラダイス」を感じたくで観光客が訪れるという。

中年を迎えた映画の都ローマで活躍する映画監督が、映画に魅せられた少年時代の出来事と青年時代の恋愛を回想する物語。純粋無垢で映画に一途な少年サルバトーレ(愛称トト)と村で唯一の娯楽である映画館の映写技師アルフレードとの素朴で温かい交流が描かれる。感傷と郷愁、映画への愛情が描かれている作品。
主人公サルバトーレの愛称の「トト」は、イタリアの喜劇王「トト」に由来するという。作中に数十本の映画の場面が細切れで登場するが彼の出演映画も上映されている。

映画を賛美する映画に相応しく、映画中に以下の映画(貼付ファイル)が、ポスターを含め短く上映される(ウイキぺディアより)。映画の冒頭に、ジャン・ギャバン主演の「どん底」のキスシーンが上演され、お堅いカトリック教徒の村人の観客はドギマギする。観客の一人である神父が鐘を鳴らして、彼の判断による“映倫” に触れる画像はカットするように映写技師に合図する。トト少年はじめ観客は地団駄を踏む。男女の絡みシーンが観客のお目当てなのに。当時のイタリア・シシリア地方の倫理観が忍ばれて面白い。また、かっこいい「駅馬車」のジョン・ウエインなどにも村人は見惚れる。さらに、「カサブランカ」「風と共に去りぬ」、「戦場よさらば」(若きゲーリー・クーパー登場)、「素晴らしき哉、人生!」、ブリジット・バルドーの「素直な悪女」、リタ・ヘイワースとタイロン・パワーの「血と砂」など名作揃いの映画の映像が短く細切れで上映されて、大変懐かしい。大半は知らない映画であるが、知っている人にとっては堪らないであろう。

ある晩、映写中にフィルムの発火事故で映画館は全焼。トトの必死の救助でアルフレードは一命を取り留めたものの、火傷で視力を失った。トトは新しく立て直された映画館「新パラダイス座 (Nuevo Cinema Padadiso) – 映画の題名」で子供ながら映写技師として働き、父親のいない家計を支えるようになった。
サルバトーレ青年は、映写技師の仕事のみならずムービーカメラを手に入れ映画を撮影するようになる。アルフレードの強い勧めもあり、映画で生きることを決意してローマに旅立つ。アルフレードは30年間は故郷に戻ることなく映画の仕事に専念するよう諭す。二人の関係は父子のようだ。

映画監督として大成したサルバトーレの許へシシリアの母親から電話がかかって来たが、彼は留守でパートナーの女性が伝言を受け取る。「アルフレードが亡くなった。葬式は明日」と知らされる。彼は30年振りに故郷へ帰る。葬式に出席した後、映画館は6年前に閉館されたことを知らされる。テレビとビデオに押されて客が来なくなったのだ。更に、映画館が壊される現場にも昔の知り合いたちと立ち会う。
母親は言う、「ローマに電話するたびに違う女性が応答するが、誰一人としてトトと一生寄り添う感じがしない女性ばかりだ。相性の合う価値ある女性が現れて家庭を築いてくれれば良かったのだが」。トトは青年時代好きだったガールフレンドのことが忘れられなくて、結婚せずに、映画に没頭したのだろうか。

映画の最初と最後に出てくる、カットされたキスシーンのフィルムを繋げて主人公の監督がたった1人で見ているシーンが良かった。昔、神父が検閲のためカットされたキスシーンをアルフレードが集めて、トトのために一本のフィルムにして、彼の形見としてトトに渡すようにしていたのだ。トトはそのフィルムを観ながら涙し、映画は終わる。

少年「トト」は小学5年生と劇中で言われる。喜怒哀楽を見事に表現した演技には感心した。映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の子役と双璧だ。主人公の若い頃のガールフレンド(アニェーゼ・ナーノ演じる)は青い眼でイタリア人らしくなく(ソフィア・ローレンやジーナ・ロロブリジータなどの妖艶なイタリア女性と異なり)、繊細で可愛かった。完全版の長いヴァージョンは主人公が故郷に帰って来た時、そのガールフレンドと再会する筋書きになっているそうだ。30年後の彼女の役はフランス女優ブリジット・フォッセーが演じた。彼女は映画「禁じられた遊び」の主人公の女の子として有名。こちらの完全版の結末も観てみたい。ラスト・シーンで主人公が一人でフィルムを見る時の映写技師は監督のジュゼッペ・トルナトーレ本人のカメオ出演だった。

最後に、全編にわたりエンニオ・モリコーネの極上のテーマ音楽がストリー展開にも見事に合って心に染み渡り、面白い映画を更に価値のあるものにしている。「Viva, Italia!」と言いたくなる秀作だ。

(菅井)この映画にはインターナショナル版(劇場版)とディレクターズ・カット版(完全版)の2種類が存在します。劇場版は完全版からかなり大胆なカットがなされており、見終わった印象はかなり異なります。BSプレミアムで放映されのは劇場版です。

(保屋野)「ニュー・シネマ・パラダイス」初めて観ました。モリコーネ音楽含め、久しぶりに堪能しました。安田兄、情報ありがとうございます。「完全版」・・ネットにその後の「あらすじ」が書いてありました。私も、エレナのことが気になっていたので、納得・・・

まさに、シナリオ、俳優、音楽の3拍子揃った映画ですね。また、見終えて「余韻」が残りました・・・良い映画の証拠だと思います。

ちなみに、この映画は、やはりイタリアの名画「鉄道員」に何となく似ています。ニナ・ロータの素晴らしい音楽と可愛い子役。そして、鉄道員の「父親と息子の愛」に対して、「子供と映画館の映写技師との愛」・・・イタリア映画の真骨頂でしょうか。

(参考)エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone1928年11月10日[1] – 2020年7月6日)は、イタリア作曲家である。映画音楽で特に知られる。

ローマで生まれ、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院[2]ゴッフレド・ペトラッシに作曲技法を学んだ後、作曲家としてテレビ・ラジオ等の音楽を担当した[1][3][4]。1950年代末から映画音楽の作曲、編曲、楽曲指揮をしている。映画音楽家デビューは1960年の『歌え!太陽』(Appuntamento a Ischia)だと言われていたが、オリジナルのスコアを使用した映画は1961年のルチアーノ・サルチェ監督の『ファシスト』(Il Federale)であり[1]、こちらがデビュー作だと言われるようになっている。同年『太陽の下の18歳』で注目を浴びた。

1960年代半ばから70年代前半にかけては、『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続夕陽のガンマン」[5]などの「マカロニ・ウェスタン」映画のテーマでモリコーネの名声は高まった。他にも『シシリアン』[6]、ジョーン・バエズが歌った「勝利への讃歌」[7]なども好評だった。マカロニ・ウエスタンでは、セルジオ・レオーネ監督との名コンビでも知られた。