T.H.ホワイトの「ペンバリー屋敷の闇」(「Darkness at Pemberley」1932年。小林晋訳。私家版)を読む。当時としては、構成が誠に斬新だったし、現在でも充分に読むに値する。
これはROM(Revisit Old Mystery)と言う同好会があって、未訳の探偵小説をROM叢書として、会員に私家版で出しており、これが18巻目となり、市販は全くされていない(以前、お伝えした「マクシミリアン・エレール」は13巻目にあたる)。
全体の1/3ほどで、警部が当たりを付けていた犯人、これが殺人狂で、3人を殺した詳細を自白される。しかし、証拠が全くなく(当時の英国では、自白は証拠にならなかったのか)、逮捕できない。それに愛想をつかした警部は辞任する。ところが、数年後、ひよんなことから親しくなった准男爵とその姉に、事件の顛末を語ったことから、話しは動き始める。これを聞いた准男爵がその殺人狂の住まいまで乗り込み、「お前を殺してやる」と言ったことから、逆に、殺人狂から狙われる羽目になる。つまり、1/3が推理小説、後半の2/3がスリルとサスペンスと言う、当時としては極めて斬新な構成となっていた。1932年と言えば、A.クリスティーの「オリエント急行の殺人」の2年前、まさに英国の本格探偵小説の黄金時代に、早くも変革探偵小説が書かれていたことになる。
最後は屋敷の煙突での追っかけっこになるのだが、小生の貧しい経験では、煙突と言えばブリキのものしか思い浮かばない。英国の屋敷の煙突は、真っすぐは勿論、横にも移動可能なものらしい。勿論、最後は、警部が殺人狂を射殺し、その姉とのハッピー・エンドで終わることになる。
Wikipediaで調べたところ、テレンス・ハンベリー・ホワイトは、アーサー王物語を題材にした小説「永遠の王」を書いており、その翻訳は創元推理文庫に収められている。また、ペンバリー荘と言う名前は、ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」から借用したらしい。探偵小説ではあるが、英国ものは、英国の色々なことを知悉していなければ、その面白みを充分に味わうのは至難の業のようだ、宗教も含め。
(編集子)つも感心するんだけど、
(菅原)ジェフ・カーソンなんて全く知らなかった。貴兄こそ、日本で殆ど知られていない、面白そうな本を良く探して来るね。英語に堪能か否かの違いだな。大昔、神田の古本屋で、日本語に未翻訳のペイパー・ブックを買い漁ったのが懐かしい。今は、「ルアンダ中央銀行総裁日記」を遅ればせながら読んでいる。まだ1/3ぐらいしか読んでいないが、著者の服部正成は、月並みだが、正に、「凄い日本人がいた」、にピッタリだ。今の日本人は、勿論、例外はあるが、どうも金の亡者になり果ててしまったようで、行き先が案じられ、誠に情けない限り。