ボー・ジェストは1939年制作のアメリアの戦争・冒険・ミステリー映画。「モロッコ」(1930)から9年、ゲーリー・クーパー再び外人部隊へ。原題Beau Gesteはゲーリー・クーパー演じる主役名であるが、フランス語で、「優雅なジェスチャー」とある。フランス語が示す通りなかなかにクセのある意味深長な題名で、フランの外人部隊へ入隊するストーリー展開もなかなか複雑微妙で、彼の名前とフランス語の意味が関連づけられている筋書きはテンポ良く進み面白い。
クーパーの外人部隊傭兵の軍服姿と砂漠のシーンは「モロッコ」を彷彿とさせる。また、1932年の「戦場よさらば」(A Farewell to Arms ― ヘミングウェイの小説「武器よさらば」の映画化)とも似通っている。兎に角、男から見ても惚れ惚れするイイ男である。彼の弟(次男)役のレイ・ミランドもクーパーに負けず劣らずハンサム男。「失われた週末」(The Lost Weekend)1945年でアル中毒の作家役でアカデミー主演男優賞獲得。この映画を観たが、オスカーに相応しい好演。彼を支え勇気づけ最後にはアル中の地獄から助け出す恋人役のジェーン・ワイマンは元大統領ロナルド・リーガンの最初の妻。ミランドはヒッチコック映画「ダイヤルMを廻せ!」(1954)ではグレース・ケリーと共演。
ミランドが演じる次男役の恋人役のスーザン・ヘイワード(I Want To Live 私は死にたくない1958年でアカデミー主演女優賞)も初々しくチョイ役であったが、当時21歳、ハリウッド第一の美女とも評されとても魅力的だ。
悪徳軍曹悪を演じた、ブライアン・ダンレビーが特に好演で、アカデミー助演男優賞にノミネートされるほどだった。何よりも、子供時代(12歳時)のボー・ジェスト役として、ドナルド・オコーナ―(Donald O‘Connor – “Singin’ in the Rain 雨に唄えば“ でジーン・ケリーとの共演で有名)が出ているのに、気づいて驚いた。
ドナルド・オコーナー(当時13歳)
アラブの格言に、「男女の愛は月のように満ち欠けするが、兄弟の愛は星のように変わらない」、とあるがこの映画は3兄弟の愛を描いてもいる。英国のブランドン卿宅に施設から引き取られ養子になったジェスト3兄弟と夫人、夫人の姪(スーザン・ヘイワード)が住んでいる。夫人の夫は金遣いが荒く、邸に寄りつくのは遊ぶ金を普請する時だけだった。3兄弟は悪戯遊びが好きで、大きくなったら外人部隊に入るなどと話している。
映画のプロローグは、アフリカの砂漠の中の砦、銃を構えているようにみえる隊員が全て死んでいるという設定が面白い。その砦に最初に偵察に入ったラッパ手が失踪し、生存者がいないはずの砦の中の兵舎から火の手があがる。 この謎が、イギリスのある上流階級ブランドン家の家庭の物語の回想から次々に解かれてゆく後半は、非常にテンポが良く、フランス外人部隊という設定や砂漠の中の砦がミステリアスな雰囲気を醸し出す。砦に籠って砂漠の民の襲撃を受けるシーンは映画「アラモ」を思い出した。
謎の鍵を握るのは “Blue Water” と呼ばれる大きな宝石。実は、ブランドン夫人は夫の放蕩で家にも寄り付かず家計が苦しく秘宝を売って現金に換えて生活費に充てていたのだ。そして模造品を保持していたのだが、ちょうど売買の現場をボーに盗み聞きされていたのだが、ボーはそのことを誰にも言わず内緒にしていた。ある日突然、ブランドン卿が秘宝を売ってお金が必要だと邸に来ることになった。そこで、ボーは模造品の秘宝を盗み出し、自分が盗んだと書置きを残して家出した。続いて、次男・三男も秘宝を盗んだのは自分だと書置きして次から次へと家を出ていってしまった。3兄弟はアフリカで外人部隊へ入隊して落ち合うことになった。そして場面は冒頭の砦のシーンへと移っていく。悪徳独裁軍曹に指揮された外人部隊は原住民軍の襲撃に曝され、砦で防戦一方となり長男のボーは戦死する。息を引き取る前に秘宝の包みを悪徳軍曹に奪い取られたが、弟(次男)が助けに来た隙に乗じて悪徳軍曹を刺し殺し、秘宝を奪い返し夫人宛ての手紙と共に夫人に届けるように弟に頼み息を引き取る。唯一の生き残り者となった弟は砦から脱出する。その後に援軍が駆けつけ、冒頭の場面と繋がる。
三男はラッパ手として砦に入り、長兄と悪徳軍曹を含め全員の死を目のあたりにするが、彼ら二人を丁重に弔い葬るため兵舎に火を放ち、自分は独り砦から脱出する。次男と三男は途中で落ち合うが、
運悪く原住民軍の襲撃を受け、兄(次男)を助けるため自分(三男)は犠牲となって斃れる。数か月後、次男のみ無事イギリスへ戻る。ブランドン夫人と恋人の姪(ヘイワード)は長男・三男の死を嘆き悲しむが、次男の無事を大喜びで迎えた。そして夫人はボーの手紙を読み、初めてボーの立派な振る舞いを理解するのであった。
その際の最後のブランドン夫人の台詞か素敵だ。「 “Beau Geste”, Beau Geste….gallant geste (勇気ある行為). We didn’t name him wrong, did we? 」(ボー・ジェスト、私たちは彼に間違った名前を付けてなかったよね)。主人公の名前とフランス語の「優雅な・勇気ある行為」という意味を兼ね合わせた言葉を映画の題名にしているあたりにセンスの良さを感じる映画だ。
尚、この映画が公開された1939年は名画の豊作の年であった。「駅馬車」「風と共に去りぬ」「オズの魔法使い」「スミス都に行く」「ニノチカ」「別離」「砂塵」「モホークの太鼓」「若き日のリンカーン」など目白押しだ。
(編集子)映画の中身については安田君の名解説に譲るが、この作品を際立たせているのがブライアン・ドンレヴィの憎々しさだ。この年のアカデミー賞にノミネートされたというのは当然のように思える。解説の中に特に触れられていないが三男を演じたのはロバート・プレストン、大平原 北西騎馬警官隊 はじめ多くのなどいくつかの西部劇でおなじみ。もう一つ、この作品で特に記憶にあるのが砂漠の砂をモチーフにしたタイトルバックだ。お気に入り 荒野の決闘 の牧場の柵を使ったやつも良かったが。いささか古い作りだが、それなりに心に染みこむような雰囲気がある、と小生は思っている。ご希望あらばDVDをお貸しできるのでご連絡ありたし。