最近テレビで「世界入りにくい居酒屋」という番組を見ているが、オーストリアのウイーン編やザルツブルグ編の居酒屋で、大声で歌われる乾杯の歌が耳に入って、私の大昔のドイツ駐在時代のことを思い出し、この小稿を記す気になった。番組では日本にいる若いタレント達が≪なんか大声で歌っていますねぇ。大声で歌うのが好きなのですね≫とか何とか合いの手を入れているが、ドイツやオーストリアのドイツ語圏の居酒屋で皆が歌っている歌は先ず一曲≪乾杯の歌―Ein Prosit・・・≫が殆どであることを知っていれば、居酒屋をより楽しめると思う次第だ。
日本では酒席での乾杯は〇〇を祝してとか、皆様のご健勝を祈念してとかで≪カンパイ!!≫となるが、同じようにアメリカでもFor Your Healthとかで≪チアーズCHEERS!!≫となるのが一般的と思う。ドイツ語圏でも同様に≪プロースト PROST!!≫となるが、少し砕けた集まりでは直ぐに≪さあ乾杯だ さあ乾杯だ 皆が集まったこの時に さあ乾杯だ さあ乾杯だ 皆が集まったこの時に 1、2、3、飲み干せ!乾杯!≫という歌が合唱で起こるのが常だ。
ところでドイツには南のミュンヘンには、日本人旅行者にも有名なホッフブロイハウス(Hofbräuhaus)と言う大きなビアホールがある。この名前はホフブロイハウスと言うビール会社の名前をビアホールに冠した物で、日本にひき直したら差し詰めキリンビールハウスとかアサヒビールハウス、サッポロビールハウスといった呼称になる。
私がドイツに居た(1965年と1973~77年)の北のハンブルグには、ツイラータール(ZILLERTAL)という南のホフブロイハウスに似た大型ビアホールがあった。日本からの出張者・来客の殆どはこのビアホールに案内するのが仕来たりの当時だったが、そのホール名が何に由来しているのかは忙しさにかまけて、今日まで調べも聞きもしなかった。ところが、過日にテレビ番組「アルプスSL鉄道の旅」を見ていたら、アルプスを走るSL列車の6鉄道を紹介していた。 6鉄道はそれぞれ 1、ブリエンツ・ロートホルン鉄道(スイス) 2、ブロネイ・シャンピー博物館鉄道(スイス) 3、フルカ山岳蒸気鉄道 4、ツイラータール鉄道(オーストリア) 5、アッヘンゼー鉄道(オーストリア) 6、シャーフベルク鉄道。
ツイラータール鉄道(ZILLERTAL-BAHN)は、かって、イエンバッハ駅→マイアホッフェン・イム・ツイラータール駅までの31キロメートルの山岳鉄道であった由。あれから(ハンブルグ勤務時代から)約50年経った今、大ビアホールの名前の由来に行き当たった本人だけに意味があるエピソードだが紹介したくなった。
(編集子)乾杯の歌、となると洋の東西を問わずに名曲が多い。蘊蓄を傾ける人も多いと思うが、小生KWV生活真っ盛りのころ、酒宴となれば数多くの名曲を圧倒して人気のあったのは実はこういうものだったのだ(ただこれは当然、場所と雰囲気を考えてのことで、慶応の学生はこういうものしか知らなかったわけではない、と付け加えた方がよさそうだが)。35年卒、荒木さんの仲間たち、畠山さんとか、酒井さん、森田さんなど、”野郎会” の持ち歌でもあったが、”野郎” 文化の衰退?なのか女性パワーのなせるわざか、知っている人も少なくなったようなのはやはり時代の流れであろうか。
いわく、
ブタが線路を行くよ
向こうから汽車がくるよ
ブタは死ぬのが嫌だから
ブタは線路を避けていくよ
そんなこたあどうだってかまやせぬ
俺たちゃ酒さえあればいい
ずんちゃかちゃかちゃか
ずんちゃかちゃかちゃか
飯田の品位ある投稿の後で申し訳ないが、思い出ついでに、何かと言えば、”俺たち” (まだ早慶戦の夜といえば学帽を被って銀座を歩いていれば、全くの他人のOB方が、(おー、おめえ、塾生か。一杯のませてやるからちょっと来い!)なんて、ただ酒が飲めたころ(嘘ではない、あったのだ、そういう時代が)の話だ。数寄屋橋の水が地下に潜ったころから、しかも、”俺たち” が後輩にただ酒をおごらなければならなくなったころから、こういう文化はなくなってしまった。学生が帽子をかぶらなくなって、塾生の見分けがつかなくなったのが理由だろうか。
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そのころ、銀座でも ”俺たち” の財布で出入りできたのが並木通りの ”ブリック” だった。最近改装してえらく立派になってしまい、俺たちゃ酒さえ、なんて気持ちではどーんと敷居が高くなったのは残念。酒豪だった横山美佐子から何かと言えば説教されたあのテーブル、2階の奥の方にあった、傷だらけの、でかい、分厚い木のテーブル。改装直前に行ったときは残っていて、時間を超えて、俺を迎えてくれた。店のオーナーに心があれば、あの頃の空気をそっと残してくれているのではないか。確かめに行こうか、まだその勇気がないままだ。