エーガ愛好会 (255) サイコ    (44 安田耕太郎)

これは60年以上前のティーンエイジャーの時、初めて観た1960年作のヒッチコック監督サイコスリラー映画だ。この映画を観た2〜3年前にアガサ・クリスティ原作、名匠ビリー・ワイルダー監督の法廷ミステリー作品である「情婦」(Witness for the Prosecution)を映画館に中学生の時足を運んで観たが、サッパリ理解できなかった。多感な少年時代、邦訳の題名に騙された。成人になって再度観た時には腑に落ちた。

「情婦」の苦い経験から約3年後、高校生になって封切りの「サイコ」を観た。当時の鑑賞後の感想は、一言で言うと「度肝を抜かれた」だった。今回観たのは3度目であったが、ストーリー展開を熟知していたので度肝を抜かれることはなく、場面展開と監督の演出を、ヒッチコックのカメオ出演場面を含め、じっくり鑑賞できた。

精神異常者のアンソニー・パーキンスが10年前に亡くなった母親と会話を交わすシーンなどは今観ると有り得ない場面設定で現実味に欠け、やや陳腐な演出だと思った。そんな想像を逞しくするシナリオも「在り」の時代だったのだろう。

「捜索者」「間違われた男」「リバティー・バランスを射った男」で好演していたお気に入りのヴェラ・マイルズが殺害される主役ジャネット・リーの妹役で出演。今観ると引き立ての華の役であったのかと思う。

ジャネット・リー、33歳の時の出演、11年前の「若草物語」から女性は成熟するものだと変に感心した。同じ姓Leigh(リー)でもヴィヴィアンにはとても敵わないが(笑)。因みにヴェラ・マイルスは出演当時、ジャネットより2歳下の31歳。全盛期ではあったろう。

事件が起こるクライマックスのモーテル場面に至る前に、警察官の執こいジャネット・リーに対する質問追跡など嫌が上にも映画をクライマックスに向けて盛り上げんとするヒッチコック演出が健気で可愛い。

事件が起こったモーテルに近接して建つ不気味な2階建屋敷はNorth Hollywoodに位置するユニヴァーサル・スタジオ敷地内に撮影当時の状態で現存していて、スタジオ巡りツアーの目玉の一つになっている。他では「ジョーズ」の大きな鮫、「バックドラフト」の火災現場が目玉になっていた。30年前に息子を連れてスタジオを見学。白黒映画で観た迫力満点の不気味な屋敷(下記写真貼付)が、小さくて貧相な造りだったのには魂消た記憶がある。見学したのが昼間だったせいもあったろう。

(編集子)”この映画の結末は誰にも話さないでください” という煽情的な新聞広告が出た翌日、学校へ出てみたら、並んだ教室のすべての黒板に ”サイコの犯人はアンソニー・パ―キンズです” とでかでかと書かれていた。チクショー、なんて言いながらそれでも見に行った。クライマックスで椅子ががらりと回転して母親があらわれるシーンはさすがに戦慄した記憶がある。安田君と違って2度見る気は起きなかった。