睡眠薬について   (普通部OB 篠原幸人)

睡眠薬を毎日飲んでませんか?今日は睡眠薬の弊害についてお話ししたいと思います。

確かに、悩み事や不安があったり、特に年齢を重ねると寝付けない・夜中に目が覚めてそれから眠れない・排尿でどうしても目が覚める・朝早く目が覚めてそれから二度寝ができないなどは沢山の方々の共通の訴えです。他にもうつ病でも不眠はよく見られます。私の専門の一つのパーキンソン症候群や、日本で初めての症例を以前私が報告した「致死性家族性不眠症」という本当に稀な、まだ日本でもお一人だけ?という病気でも見られます。

多分皆さんの中にも睡眠薬(睡眠導入薬も含む)を頻回に、あるいは毎晩、服用されている方もおられるでしょう。日本人の五人に一人は不眠症というデーターもあります。しかし、何時も不眠を訴えられる患者さんに私は言っています。“眠ってしまって亡くなる方はいるけれど、不眠のまま亡くなった方は例外的な稀な疾患の方以外はない。だから不眠は心配するな。人間は本当に疲れれば、眠っていけない環境でも眠ってしまうものだ”と。

実は高齢者では睡眠時間が短すぎても(例えば毎日5時間以下、但し床に入って横になっている時間は睡眠時間に加えてもいいかもしれません)、また長すぎても(毎日9時間以上)認知機能に障害が出やすいという報告があります。従って、適切な時間をグッスリ寝ることは健康によいのですが、一方でなかなか寝付けないのは辛いですね。特に明日、大切な仕事がある、ゴルフに行くなどの時には寝られないとイライラして更に眠れなくなったりして。

日本では、特に内科の開業の先生などが比較的安易に睡眠薬を処方されるケースを見かけます。よく使われるお薬はベンゾジアゼピン系薬剤(例えばハルシオン、レンドルミン、ネルボン、ユーロジン、イソミタール、リスミー、サイレースなどなど)や非ベンゾジアゼピン系薬剤(マイスリー、アモバンなど)です。しかしこれらの薬剤は副作用(最近は副反応とも言いますが)も多いのです。ふらつき、その結果の転倒・骨折、朝ボーッとして寝覚めが悪く午前中はミスが多い、運動機能・運転機能の低下、注意力低下、他にも「せん妄」などの精神症状が知られていますが、皆さんが意外に知らないのは睡眠薬の長期連用と認知症発症との関係です。欧米の一部の医師は高齢者には従来の睡眠薬は投与しないと言い切っています。もし睡眠薬を1か月以上連用されている方は、かかりつけの先生とよく相談されることをお勧めします。

じゃ眠れない時はどうすれば良いんだ、眠らなくても睡眠薬で眠っても同じ認知障害になるのではと、怒られるかもしれません。最近は、ベンゾジアゼピンや従来の非ベンゾジアゼピン薬剤以外に、メラトニン作動薬という薬もあります。かって飛行機のパイロットが時差ぼけの回復に使っていると噂のあった薬です。このメラトニンが、米国では薬局でもない普通のスーパーマーケットに無造作に積まれているのをみて私もビックリしたことがあります。

ほかに最近はオレキシン受容体拮抗薬という新しい睡眠薬が日本で使えるようになりました。まだ新しい薬なので副反応も十分知られていませんが、おそらく従来の睡眠薬よりは認知症誘発などの副作用はないか少ないと思います。是非、かかりつけの先生にこの新しい知識を披露して、場合によっては処方を考えてもらって下さい。

入眠時は多少体温が下がったほうが良いので、入浴はなるべく寝る2-3時間前が睡眠には良いと思います。またあまり早く床に就くのも考え物です。することが無くても不眠の方は9時前には布団に入らないでください。寝すぎるのも脳には良くないとさっき言ったでしょう。昼寝・うたた寝も20-30分程度に抑えてください。昼間の散歩など運動も睡眠には効果的です。睡眠薬替わりの”寝酒“は、飲み過ぎて水分が多くなりすぎると、夜中の排尿回数が増えて逆効果です。70歳過ぎたら、夜中に1回トイレに起きるのはしょうがないと考えて、もし3回以上起きるなら、泌尿器科の先生に相談するのも良いかもしれません。但し夜間の排尿回数を減らすという市販の漢方薬の効果はかなり個人差があるようですよ。

今日も参考になりましたか? 睡眠薬を一週間に一回程度飲むのは、その服薬錠数がそれ以上増えなければ、あまり心配はないことも付け加えておきます。今晩こそ、安心してグッスリ寝てください。