エーガ愛好会 (194) ラーゲリより愛を込めて  (51 齋藤邦彦)

『ラーゲリより愛を込めて』 を観てきました。ロシアによる理不尽なウクライナ侵攻に怒りを感じている方は多いと思います。旧ソ連は第二次世界大戦後の1945年から11年間いわゆる「シベリア抑留」を推進しました。これは国際法にもポツダム宣言にも違反して58万人を拉致監禁のうえ強制労働を強いたものであり、約1割の旧日本兵が飢えと寒さと病気で亡くなったといわれています。

「シベリア抑留」については山崎豊子原作の「不毛地帯」などでその過酷さや悲惨さが表現されており、これも暗い映画で観客も高齢者が多いのではと想像していました。映画館に入って驚いたのは若い女性が中心だったことで一瞬映写室を間違えたかと思うほどでした。この作品のもとになったのは昭和61年に角川書店と読売新聞社が共同で「昭和の遺書」を募集した際に、主人公山本幡男の妻山本モジミが夫からの遺書を投稿したものを辺見じゅんが『収容所(ラーゲリ)から来た遺書(1989文藝春秋)』と題して実話をもとに執筆したものです。

監督は『糸』の瀬々敬久、主演は嵐の二宮和也、共演は北川景子、SEXY ZONEの中島健人、松坂桃李、桐谷健太など豪華な顔ぶれです。

物語はハルピンに住んでいた山本幡男の家族がソ連の侵攻により引き裂かれ、妻と子供達だけが日本に帰国出来、本人はシベリアに抑留されるところから始まります。長い抑留生活の中で人間らしさと希望を捨てないで仲間を励まして生き続けた彼は、次第に仲間からの信頼を強くしていきます。残念なことに帰国(ダモイ)は叶わず強制収容所(ラーゲリ)内で亡くなりますが、山本幡男の遺書が彼を慕う仲間達の驚くべき方法(ここが肝です!)によって厳しいソ連の監視をかいくぐって遺族に届けられます。北川景子の迫真の演技とラストシーンには思わす込み上げてしまいました。(半分ネタバレでスミマセン)

前述の映画の予告編で『Winny』3月10日全国ロードショーが流れていました。これも楽しみです。2002年金子勇はファイル共有ソフト「Winny」を開発し瞬く間に利用者を増やします。このファイル交換の仕組みは現在のfacebookなどのSNSで使われているものでザッカーバーグよりも早くにこのソフトは日本で開発されていました。ところが2004年に違法アップロードの利用者が著作権法違反で逮捕され、金子も著作権法違反の幇助罪で訴えられました。彼は一審で有罪判決を受けるものの高裁で無罪を勝ち取りますが、1年後に42歳の若さで心筋梗塞により倒れて亡くなります。日本がSNSの先進国になる機会を自ら失ってしまいました。これは日本のIT化・ディジタル化を決定的に遅らせた出来事で(一説には30年遅れたと言われている)今でも私は日本の頭脳が周りの利権者から潰される象徴的な事象だと考えています。この禁断の事件がついに映画化されるというので大きく期待しています。

(編集子)齊藤兄、小生自身満州からの引き揚げですが、伯父のひとりが外交官で終戦当時ハルビンで総領事をしていましたが行方が不明になり、終戦とともに伯母がありとあらゆる方法で安否を尋ねていましたが最後まで分からず、最終的にはどこかの収容所で病死した旨判明しました。そういうわけでこの時代背景には形容しきれない感覚を覚えます。