エーガ愛好会 (193) 新・明日に向かって撃て  (34 小泉幾多郎)

先週BSP放映の「明日に向って撃て!」でアカデミー脚本賞を得たウイリアム・
ゴールドウインの総指揮のもと、その10年後に、同じ主人公ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの青春期を描く「新・明日に向って撃て」が制作された。本編のポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードに代り、ブッチにトム・ベレンジャー、サンダンスにウイリアム・カットが扮した。

本編のリメイク版と思いきや前日譚で若かりし二人の青春期を描く。監督はビートルズの映画でその映像感覚を評価されたリチャード・レスター。

馬泥棒で服役中だったブッチがワイオミングの刑務所から釈放されるところから始まり、賭博場でサンダンスが仕掛けた銃撃戦に巻き込まれサンダンスに銃を奪われるが、その腕を見込んだブッチが仲間に誘い、二人組が誕生する。二人とも本編のニューマン、レッドフォードの風貌・雰囲気は勿論、仕草や表情までが再現されている情景は本編を意識しての演技や作り方になっている。本編が死を予想して、破滅的で寂しい雰囲気が漂っていたのに対し、この前日譚は、死の予想とは無縁の屈託のない、破天荒で陽気な無邪気さとユーモラスを主眼とした雰囲気の西部劇。その代わり、本編のような時代の変化に取り残された憂いや残酷なリアリティはない。しかし普通の西部劇には見られない鮮やかな舞台が用意される。雪山を越えるシーン。真っ白な雪山.一本杖のスキー遊びは本編の自転車乗りの対称化か。白は何事にも悩まされない気儘と自由で無垢な青春時代の特権でもあり、無垢な時代の爽やかなる西部劇を表現しているようだ。桜咲く小道での射ち合いなんかもある。雪の中炭鉱でジフテリヤが流行し、血清を届ける仕事を請け負ったり、そのほか、強盗団のボスO.C.ハンクス(ブライアン・デネヒー)との対立から、ブッチの家への逃避で、その妻メリー(ジル・アイケンベリー)とその息子娘3人との交流もある。本編からはブッチにこんな家族がいたなんて信じられなかった。最後は、二人での列車強盗。騎兵隊が同乗している列車から、まんまと造幣局のカネを盗み出しに成功したところで、強盗二人ながらも、爽やか溢れる西部劇の幕が下りる。

(編集子)トム・ベレンジャーというと、テレビで幾度もみた 山猫は眠らない  シリーズの父親の印象が強い。親子で出た回もあったが、あまり印象に残っていない。