エーガ愛好会 (141)  リオグランデの砦   (34 小泉幾多郎)

ジョン・フォード監督の騎兵隊三部作の最終作。この連作は、太平洋戦争を軍人として戦ったフォードのアメリカ軍に対する讃歌とも言えるが、「アパッチ砦」では、ヘンリー・フォンダが演じた辺境の隊長の突撃戦法に対し、ジョン・ウエイン扮する副官は良識ある人物、「黄色いリボン」でのウエインも退役真近の老大尉に扮し、敵インディアンの良き保護者でもあったが、この映画のウエインは勇猛果敢な騎兵隊長となり、アメリカ領内を荒らすアパッチが、騎兵隊が踏み込めないメキシコ領内に逃げ込んでしまうのに怒り、国境のリオ・グランデ川を渡り、メキシコ領内のアパッチを殲滅してしまうタカ派の大佐を演じる。フォードのアメリカ軍への賛辞は、従順な弱者には極力寛大であろうと努めるが、相手が執拗に敵対して来るならば容赦なく相手を叩きのめすことを示していると言えるようだ。

南北戦争中、北軍だったウエインが、妻モーリン・オハラの南部の生家を焼いたため、戦後15年、妻と一人息子クロード・ジャーマン・ジュニアとで別居中。その息子が士官学校を落第し、志願兵となり、その息子を除隊させるために、後を追ってやって来たのだった。モーリン・オハラは白い肌に赤い髪、グリーンの瞳が映える美女で、当時総天然色カラー女優と言われ、時代活劇のヒロインとして華やかに彩ったが、これは残念乍ら白黒、それでも魅力的なやさしさやアップでの表情の美しさ。gisan お気に入りのウエインと再会してテントの中で帽子をとって話始める場面からその美しさは最後まで変わらない。

全般的にアクションを主体に、息子の教育問題で対立しながらも、ウエイン、オハラ夫妻の愛情か任務かの葛藤を絡ますシンプルな構成になっている。前半は、ウエイン、オハラ、ジャーマンの親子が再会による愛情が、叙情的に描かれると同時に、騎兵隊の仲間たちの絆、騎兵隊3部作で老軍曹長として重要な役割を演じてきたヴィクター・マクラグレンとのやりとりや、ベン・ジョンスンやハリー・ケリーjrが馬2頭に立って乗るローマ式騎乗、ジャーマンも含め三人とも練習して本人が実際に騎乗したようだが、ケリーだけはスタントとのこと。騎兵隊ものだけに馬が生きて使われていた。息子ジャーマンの一人立ちするためへの努力等も目立つ。後半になると、アパッチとの対決になり、馬車を襲うアパッチとの戦い、捕われた子供たちを救出すべく敵地へ乗り込む騎兵隊。アパッチを単純な悪として勧善懲悪になっているが凄まじい活劇で盛り上がる。中でも、ベン・ジョンソンが格好良い、馬上で岩山に不意に現れ、斜面を一気に駆け下りると食事をいただいた後、騎馬のインディアンを3人撃ち落とす連動感。戦いから帰還する騎兵隊を待つ家族、オハラのアップで無事か否かを確かめる場面、最後の表彰式で音楽に合わせて、オハラが日傘をくるくる回す場面等々印象的な場面が数え切れないうちに終幕。

音楽がヴィクター・ヤングだけに、優雅な旋律に纏われ、情緒豊かに描かれながら、騎兵隊専属のサンズ・オブ・パイオニアーズが歌いまくる。挿入曲は9曲とのこと。I’ll Take You Home Again, Kathleen 等を聴くと傾聴してしまい、ミュージカル映画かと見間違う場面も。このシーンを聴くウエインが「私の選んだのではない」オハラが「そうだったら嬉しかったのに」と答える。何とも言えないシーンとなった。その後二人は夫婦役で多くの名作「静かなる男1962」「マクリントック1963」「100万ドルの決斗1971」を残すことになった。

(安田)ジョン・フォードは抒情性豊かな作風から「映像の詩人」と評された。ひと昔(ずっと若い時)、この映画を観た時はそれほど感じなかったフォードのの詩情豊かな場面と映像を、今回は印象深く感じた。歳を重ねるとは“そういうことなのか”と悪い気はしなかった。ネイティヴ・インディアンを悪玉にして徹底的にやっつけるのは、現在の視点で観ればちょっと悲しいが、それを除けば、詩情ゆたかなアクションもあるさわやかな西部劇だった。

  1. 初老の指揮官役ジョン・ウェインは、豪放さと繊細さを併せ持ち、不器用ながら自然体で演じているのが良かった。
  2. 15年振りで会う妻(モーリン・オハラ)とは、別居の原因にお互いわだかまりを感じつつも、夫婦の微妙な愛情を随所に見せる“恥じらい”にも似た表現・演技は見応えがあった。「静かなる男」での共演でもこんな雰囲気であった。騎兵隊キャンプに到着してテントの中で二人きりのシーンは本映画のハイライトの一つ。
  3. 妻を歓迎して軍楽隊が歌うシーン、幌馬車隊が砦を出発する時、最後の表彰式での軍楽隊演奏など、要所でヴィクター・ヤングの音楽が感動的ですらある。
  4. ベン・ジョンソンとハリー・ケリーJrの二人が、裸馬2頭に立ったまま乗りグランド一周を疾駆する場面は、西部劇映画では他には見たことがない、名場面だ。ベン・ジョンソンはスタントなしで本人が演じたという。さすが、カウボーイの父親に育てられ、本人もロデオのチャンピオンになったことがあり、ハワード・ヒューズに馬の調教師として雇われたことが映画界に入るきっかけとなった事だけはある凄技だった。
  5. 幌馬車隊がインディアンに追われ逃げる場面や、ベン・ジョンソンが馬で疾駆する場面の迫力は、「駅馬車」や「荒野の決闘」などと同様、ジョン・フォード、ツボを心得ているな、と唸った。
  6. エンディング近く騎兵隊の突撃シーンはクライマックスを盛り上げる効果抜群。
  7. フォード一家のイギリス俳優の古株ヴィクター・マクラグレンは名前からしてフォードと同じIrish系であろう。フォードが初めてアカデミー監督賞を獲得した1935年制作の「男の敵」では、彼は主演男優賞を獲得した。それ以来のフォードとの付き合いであろう。世話係の伍長役を人情味とユーモアに溢れ、独特の風貌と演技で見事にこなして、印象深い。南部出身の妻(モーリン・オハラ)からは、北軍の兵士だった彼はからかわれるような、虐められるような絡み合いシーンがあり、大変面白かった。
  8. 息子ジェフ役のクロード・ジャーマン・ジュニアはどこかで覚えのある顔だな、と思ったら、グレゴリー・ペックの「小鹿物語」に続いて2作目だった。ナイーブでありながら騎兵隊生活になじんで逞しくなっていく様を見事に演じていた。
  9. 南部気質が顔を出すモーリン・オハラの頑固さや直情の感情表現はオハラの芯の強い逞しい南部女性を見事に演じていた。「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リー演じるIrish系の南部女性スカーレット・オハラにも通ずるところがあった。
  10. 好きな場面は、エンディング近く表彰式に臨席した、ヨーク中佐(J.ウェイン)の横に並んだモーリン・オハラが白い品の良い日傘を頭上でくるくる回しながら、にこにこと笑いながら眺めているところ。この映画の温かさと優しさが象徴されていると感じた。フォードの詩情性豊かな感性の面目躍如たる場面。
  11. 男たちは勇敢で、純真で、女たちは可憐だが逞しく。家族愛、仲間愛に溢れ、古き良き時代のアメリカが見事に描かれた映画だと思う。ジョン・フォードの騎兵隊三部作の中では一番好きだ。最終作でもあったので有終の美を飾った感。

(小田)この何日かは、身内の出入りで、民宿のオバサン状態?でしたので、途中からですが、見ました。*この映画のキリッとしたジョン·ウエインは他のに比べ良いと思いました。

*西部劇の中の子役達…教会の鐘をならす女の子や息子役のクロード·ジャーマン·Jr.など好演していました。安田さんご指摘のクロード ジャーマン·Jr.は(’34 9月生)87歳で健在、起業家で、サンフランシスコ国際映画祭元事務局長やサンフランシスコ市の元文化局長も務めたようですね。
*馬の扱いについて話題にされていましたが、馬を一回で倒し、銃撃戦の楯にするシーンにも感心しました。
*小泉さんの御解説に有りました、❬I’ll Take You Home Again,   Kathleen❭ はElvis Presleyもしんみりと唄っています。

(編集子)この作品に登場するサンズオブパイオニアーズ。まだカントリという呼称が流行らず、ひっくるめてウエスタン音楽、と言っていたころ、上品なコーラスが印象深かった。いろいろ買った中から捨てきれずにとってあった ”レコード” がこれ。まだ残っている何枚かを聞きたくて、アンプも何台かつくったが、そのたびに今入手できるプレーヤが高価かつ超高性能でバランスが取れず、手軽にできるCDをソースにしたものばかりだ。そろそろ半田鏝とおさらばするのがいつか、というところまで来てしまったので、”最終作”にとりかかって、目をつぶって高いプレイヤーを買って,この ”レコード” を聞かねばなるまい。