閑のあるまま―”三大” 何とかの話 (その3)     

物理的に何らかの指標がない事象について、優劣だとか好き嫌いとかを決めなければならいないときの選択基準というものがあるのだろうか。そんなものはないはずなんだが、一種の確率のようなものもある、と思う時もある。映画、でなく エーガ、だったころの話だが、 ”アラン・ドロンとアーネスト・ボーグナインのどっちがハンサムか?“ と言ったとすれば、まずはアラン君に票が集まるだろう。この場合、”ハンサム“ の定義は何だ、と言われても明快に答えは出てこないけれど、多くの人々の間にある種のクライテリアが存在するのではないか。

このような場は人生いたるところにあるのだが、味覚、ということについてはどうだろうか。味覚、という事を論ずる場は基本的に日常の生活の場である以上、環境とか雰囲気とか人生経験とか人間の感情感覚の中であるから、絶対的に中立な条件で論じられるものではあるまい。そう考えてみると、味覚、を論じるときに大きな影響を与えるのは、物理的とともに人間の感覚を支配する、場所、という事があるのではないだろうか。そんなことから、頂戴した意見を整理してみることにする。

保屋野君いわく:

先日ワンゲルの同期5人で銀座でランチを楽しんだのですが、そのはす向かいに「日新堂」という高級時計店があります。この会社のオーナーはKWV1年先輩の佐川さんで、あいさつに寄ったのですが帰りに、佐川さんから「銀座百店会」の小冊子をいただき、店の名前を眺めていたら、ユニクロも入っているのにビックリしました。この中に、飲食関係(レストラン、日本料理)が26店舗ありました。レストランでは、三笠会館、つばめグリル、ライオン、資生堂パーラーなんか有名ですね。日本料理では、てんぷら屋(ハゲ店、天一、天国)すし屋(久兵衛、乾山)後は、鳥ぎん、吉兆、やす幸、ろくさん亭あたりが有名かな。ちなみに、私は、三笠会館、ライオン、久兵衛しか行ったことがありません。

“しか” と言われる中に久兵衛が入っているとちょっと構えてしまうのだが、現役時代、華やかなりし夜の銀座にくわしい児井君はさらに書いている:

銀座は総じて名前に恥じぬ高級店のイメージが濃厚でしたが、バブル崩壊以降、変貌著しく、二極化が進むと共に店構えも大きく変わって来たと思います。先に親友飯田君指摘の様に「食事の楽しみ」は料理が美味く値段もリーズナブルであることは元より、店の雰囲気、シェフ/板前等の応対・愉快な会話にあると思います。皆さんご推奨の店以外ではコリドー街に在った合唱も楽しめるドイツ料理店「アルテリーベ」には良く通いました。銀座ではありませんが六本木の「ストックホルム」では好物の北欧料理を大いに楽しみました。
好きな「焼鳥屋」ではこれも銀座ではありませんが、軍鶏炭火焼店「たかはし」(山手線五反田駅前)が贔屓な店です。

彼は アルテリーベ や ストックホルム が(まだあるのかな)と心配しているが、同様な経験はたくさんある。銀座八丁目のおでんの名代 お多幸 の野田君は小生の高校時代からの友人だが、銀座の店の世代交代は昔からあることなので仕方ないと思うが、外国企業がいかにもビジネスライクに出入りを繰り返すのは銀座、という世界に誇る街の伝統を壊してしまうのではないか、と嘆いていた。小生が高校時代、映画に行った帰りなどに良くいっていた(つまり当時、いまよりはるかに高級だった銀座に高校生でも行ける少ない店だったのだ)スイス とか 煉瓦亭 なんかが亡くなってがっかりしていたら、三丁目あたりになるのだろうか、松屋あたりのガス灯通りに移転していたのを発見して大変うれしかった。

これから少し飛躍して、フランス行きなどを計画しておられる向きに、平井さんからのパリ情報も届けておこう。

1. アンジェリ-ナのモンブラン:随分昔、目黒駅の近くにモンブランという喫茶店がありましてお友達と会うのによく使っていたのですが、モンブランというケーキが売り物でした。パリに来て間もなく、本場物のモンブランが食べたいと探したのですが、これが意外とパリのパティッスリ-にはないのです。やっと見つけたのがアンジェリ-ナ(本店はルーブルの近くリヴォリ-通りにあります)のモンブランです。マロンクリ-ムがこってりして大きく美味しかったですが、最初半分もたべられませんでした、が、今はペロリと食べてしまいます。時々無性に食べたくなる時があります。

2. シャンティ城のレストランのシャンティ・クリ-ム:このお城は17世紀後半コンデ公爵の所有で、料理人だったヴァテルが最初にこのクリ-ムを作りました。1671年ルイ14世の来城の折り、注文していたメインの魚が時間に着かず、自殺してしまったのですが、何と魚は別な入り口に着いていたのです。こんな逸話がありますが、ここのお庭のブラッスリ-で頂くシャンティクリ-ムは本当に美味しいです。

3. フォンテンブローのフロマ-ジュ・ブロン(ホワイトチ-ズ):フォンテンブロー城の近くにバルビゾンという小さな村があって、ミレ-のアトリエがあり印象派の画家たちも訪れていた有名な村なのですが、ここに昭和天皇も訪れたというブレオというレストランがあります。ある時とない時があるのですが、ここで出されるフロマ-ジュ・ブロンは逸品です。

パリはともかく、どっこい東京のベストは、と万事に博識で会社時代にはあまたの顧客のなかでも手ごわかった斎藤さんは主張する:

■スイーツ
1位 ランペルマイエのスイートポテト(渋谷東横のれん街)
2位 マッターホーンのサンレモ(学芸大学)
3位 マッターホーンのモンブラン(学芸大学)

■豆大福
1位 原宿 瑞穂
2位 護国寺 群林堂                           3位 泉岳寺 松島屋

話がデザートから始まったが、小生学生時代か今日まで、まずまったく、と言っていいくらい変わらず半世紀前の雰囲気をしっかり維持しているのが 銀座ウエスト だ。当時から名曲をハイファイで聞かせることでも知られた店で、さすがに音源はCDに変わったとはいえ、さりげなく置いてあるプログラムまで変わらないし、ウエイトレスのユニフォームや接客態度や、そして多分、テーブルの配置まで変わっていないのではないか。銀座へ出るときには、ここへ立ち寄って紅茶とショートケーキを食べるのをコースにしている。”まったり”という形容詞が当てはまる時間が流れるのを感じる場所である。

デザートから一足飛びにアルコールの話だ。酒といえばアルミの食器で煮えこぼれた 白滝 (なんであの銘柄が上善如水、なのか今でもわからない)などで盛り上がっていた時代の記憶がしっかり残っている小生のごときものからみれば、ゲーテかミケランジェロか、KWVの酒仙(?)ふたりの意見を紹介する。

畏友浅海昭はこう書いている:                      小生が味わったワインの産地別BEST3(ちょっとキザだったかな)

カリフォルニア   オーパス ワン                   ブルーゴニュウ  ロマネ サンビヴァン                    ボルドー   ペトリュース

半世紀を超える交友関係だが彼が飲めないのは生卵だけなようだ。佐藤充良君はウイスキーについて語る:

シングルモルトは1000種類以上といわれていますが、スコットランドの6つの主要エリアのもので比較的リーズナブルなものの中から、気分に応じ飲んでいるのを「俺の普段飲み三大シングルモルト」としました。

  1. 気力充分で気合を入れて飲みたいとき                   アイラ島の「アードベッグ10年」・・・何と言っても強烈なピート香と強烈なスモーキーなフレーバーは「飲むぞ」の覚悟で飲りたいブランドです。

2. ちょっと酔ってみるか、の気分の時                  スペイサイドの「グレンファークラス105」・・・アルコール度数60%は飲みごたえ十分でスパイシー。ダブルで3杯まででやめたほうがいいです。

3. 食後に更に飲みたい気分のとき                    アイランズの「ハイランドパーク12年ヴァイキングオナー」・・・公に食後酒として推薦されているかはわからないがほのかに甘くてマイルドなピート香がして食後にストレートで飲むと二度飲みが楽しくなります。

ミツヨシが気合を入れて飲むとどうなるのか、ちょっと怖い気がする。現役時代彼と首席を共にした各位、そのあたりの事情をご存じあるか。

KWV現役時代の小生は飲むことにかけては横山美佐子とか浅海なんかからは子ども扱いされた口だが、コロナ蟄居の間にだいぶ酒量が増えてきた。この期に及んでいかがなものか、という気がするが、佐藤君には怒られるだろうがスコッチ党ではない。会社時代、ある付き合いですすめられたのがきっかけで、ウイスキーならばもっぱらバーボンになってしまった。バーボンとテネシーはどう違うか、とか、その道のエキスパートには笑われるだろうが、ま、ケンタッキーにせよテネシーにせよ、アメリカの草臭いあのあたりの品、という程度の知識しかない。その中でおずおずと言わせてもらえば、ダントツにうまいなあ、と思うのはブラントン、だと思う。ワインに近いような柔らかさが好きだ。ワイルドターキーだフォアローゼスだと銘酒と言われるブランドはいろいろあるし、”通”から言わせればまず間違いなく格下になるだろうが、アーリータイムズが味とかなんとかではなく、始めて飲んだ時の思い出というと気障だがそんなものがあるのと、近場のスーパーで格安なので、”気合を入れずに“ 寝酒の定番になった。もう一つ、ウイスキーではないが、これもコロナ蟄居で生まれた(?)日課として、夕方5時になると 大岡越前 を見ながらジントニックを作るようになり、北方謙三が小生愛読の ブラディドールシリーズで主人公に ”ビーフイータ―だけがジンさ“ なんて言わせていたのでうるさいことはわからないまま、これを定番と決めてきたのだが、同じシリーズの中で、やはり主人公が親友を失った後、仲間に ”俺たちができることは奴を覚えていてやることだけだな” という場面がある。同じ気持ちで、ジンのブランドは日本産の 翠 に変えた。文頭に言ったことだが、まったく味には関係ない選択である。

飲む食べるとなると話題は一気に広がるが、本稿はすこしばかりハイブラウな記事に偏ってしまったようだ。次回はテーマを限定して情報交換や思い出話なんかについて書いていただければありがたい。

1.蕎麦                                2.中華そば(ラーメンに限定せず)                   3.カレーライス(お皿に盛った、日常的なランチメニューとして)    4.ハンバーガー(ハンバーグなんとか、ではない、これも正統的なもの)  5.餃子