乱読報告ファイル  (17)  中国 ”国恥地図” の謎を解く  (普通部OB)菅原勲

「中国「国恥地図」の謎を解く」を読んだ(2021年、新潮新書)。父親が中国人、母親が日本人の譚璐美(タン・ロミ)の作品で、塾の文学部卒業。

国恥(国の恥)と言う、オドロオドロしい言葉に惹かれて手に取ったもので、日本で言えば、ロシア、韓国に、夫々、不法占拠された北方四島、竹島の失地回復の類いの話しだ。

その地図には色々な版があるが、一言で言ってしまえば、「中華國恥圖」とは、中華民国の前の清の最大の版図と失われてしまったそれとの比較を通じて、この失地は、国の恥であると中国人の民族主義(ナショナリズム)に訴え、それを高めることを目的としたもので、中華民国の蒋介石が音頭をとって、全土に亘って小学校以上に推進したものだ。その内容は、簡単に言ってしまえば、

1.喪失した辺境(例えば、樺太、満州、台湾、香港、マカオ)。     2.撤廃された藩邦(例えば、琉球、朝鮮、ベトナム、タイ、ラオス)。  3.租借された地域(例えば、遼東半島は日本の租借地)。租界或いは居留地(例えば、上海、アモイなど)などであり、日本に較べ国土が桁違いに大きいだけに、ほら話しにも等しい内容の失地の多さがその特徴だ。

中華人民共和国(以下、中共)はそれを踏襲したもので、正当な失地であるならば、正々堂々と回復を促進すべきだろう。しかし、例えば、九段線(キューダンセン)と言われる九つの破線で囲んだ南シナ海の海域を中国領と決めつけた。ところが、ご存知のとうり、2016年、オランダはハーグの常設仲裁裁判所から「法的根拠がなく、国際法に違反する」との判決が下った。ところが、中共は、この判決は紙くずだと言って拒否。一方、提訴していたフィリピンも、大統領が、中国に買収されたにも等しいドゥテルテに変わっていたため、ここでも屑箱に捨てられてしまった。一体、正義はどこに行ったのか!なお、中華民国時代は、それが十一段線だったが、中共がベトナムに配慮して、その内の二段を消去し九段としたもので、この一事をもってしても、この段線が極めて胡散臭い代物であるのは紛れもない事実だろう。

いずれにせよ、裁判所から違法であるとの判決が下ったように、この段線は、今や、中共の完全な創作と言って良い(台湾は、依然として十一段線に固執している)。また、一方では、中国の南限は海南島であると明言している地図もある(これに基づけば、南シナ海は中国に属さないことになる)。事程左様に地図は極めて恣意的に作成されており、濫りに信用するわけには行かないと言うことだ。

最後に、譚璐美の締め括りの言葉、「二十一世紀の今日、中国が近代国家として世界の仲間入りを果たしたのであれば、今さら過去の幻想を夢みて「歴史物語」に酔いしれている場合ではない。歴史は歴史として検証し、現実のこととは切り離して考えるべきだろう」。しかし、無謬の共産党が支配している中共には、何を言っても蛙の面にションベンだし、果たして聞く耳を持つ国だろうか。