世界的エネルギー不足に対して  (普通部OB 田村耕一郎)

はたまた石油危機か?という不安が続きますが、関係情報を得たのでご参考までにご覧ください (出所:「宮崎正弘の国際情勢解題」)。

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世界的なエネルギー価格上昇の懸念を受け、石油備蓄の放出に関する報道が相次いでいます。各国の個別の対応のみならず協調行動の可能性も浮上しています。

エネルギー価格の上昇はバイデン政権にとって最も厳しい試練になる恐れがあります。しかし実際のところ、バイデン政権ができることは限られています。何か手を打つとすれば、戦略的石油備蓄(SPR)の放出しかありませんが、効果は限られます。しかし、少なくとも具体的な対応をとっているという政治的アピールは可能です。このため、おそらく米国としては、最大3,000万バレルの緊急放出ではなく、最大500万バレルの「テスト・セール」のような措置にとどめ(この場合、緊急事態宣言は必要なく、エネルギー長官の決定で足りる)、さらに中国や同盟国との協調放出を進めようとしていると考えられます。

米中首脳会談では共通の利益に向けた連携が強調され、エネルギー危機への対応にも言及がありました(明日の記事で説明します)。中国はもともと単独でもSPRの放出を行う姿勢を見せており、米国との協調を受け入れる余地は十分にあると考えられます。上記記事で述べたとおり、原油価格は落ち着きを見せているので、SPRの放出の可能性は高くないと考えられていましたが、このような首脳会談からの流れを見ると、可能性はやや高くなったといえます。

しかも、次項で述べるとおり、ビルド・バック・ベター法案を成立させる上でも、インフレ懸念に対応しているというポーズを見せることは重要です。実際、原油価格の高騰は収まりつつあるので、政権としては短期的な圧力を弱めれば足りるところ、こうしたメッセージを出すことはそれなりに有効とも考えられます。

(ビルド・バック・ベター法案の下院可決)

米下院がビルド・バック・ベター(BBB)法案をついに可決しました。220対213で、民主党の反対は1人(ジャレッド・ゴールデン議員)でした。以前に指摘したとおり、下院は11月19日までの可決を目指していましたが、民主党穏健派はその前に議会予算局(CBO)による歳出と歳入の試算結果を確認する必要があると主張していました。今回の可決は、CBOが前日に試算結果を発表したことを受けて行われたものです。

CBOの試算はバイデン政権(民主党)の試算と大きく異なりましたが、それでも穏健派の多数は納得し、法案は可決されました。なお可決前に共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務が下院での演説としては最長記録となる8時間半の演説を行ったことも話題になりました。

バイデン政権の試算結果は州税・地方税(SALT)控除の上限引上げによる減税効果などを含めていなかったのですが、CBOはこれらを含めて計算しており、新規支出と減税の合計額は2.2兆ドル、1,600億ドルの赤字を生じさせるという結果になりました。このような大きな違いが出ることを見越して、バイデン政権はCBOの試算をあらかじめ批判するという異例の行動に及んでいました。

それでも下院では可決に至りましたが、問題は上院です。マンチンとシネマの両上院議員は法案を大幅に書き換えるでしょう。しかも12月には国防授権法(歳出削減の回避が必要)、債務上限、つなぎ予算の失効という立法アジェンダが立て込みます。これらの問題はドタバタを演じながら最終的に解決されるでしょうが、BBB法案の審議にかける時間は大きく制約されます。したがって、年内の可決は難しく、来年に持ち越す可能性が高いと考えられます。

バイデン政権は、かねてよりOPECプラスが増産しないことを批判していましたが、先週には、FTCに石油市場の操作を監視するよう指示しました。これらの措置は、産油国やエネルギー企業の投機的行動に矛先を向けさせることが目的で、やはり打つ手が限られている中で国民への政治的アピールのために行っているものです。今後もこうしたメッセージは繰り返されるでしょう。

また、先週、バイデン政権はメキシコ湾での石油採掘のためのリース権の入札を実施しました。もともと公約に従い、発足直後に国有地での石油・天然ガスの新規リース契約を停止したのですが、産油州から訴えられて敗訴していました。そして最高裁でも勝てないと見てこれを許可したものです。民主党左派を失望させる措置ですが、エネルギー問題について批判をかわしつつ、民主党左派にはBBB法案を可決させることで、最終的には納得させるという計算があるのでしょう。こうしたバランスをとった現実的な路線を続けることで苦境をしのぎ、BBB法の成立で挽回を狙う、というのが政権の戦略と考えられます。