米国の対中国政策について (2)

(つづき)

 2.われわれの価値観に対する挑戦 Challenges to our values 

中国が世界に広めようとしている価値観は、アメリカ人をかたちづくっている個々人の生命、自由、そして幸福を追求する希求は何人も犯すことができないという信条に対する挑戦である。現在の中国共産党はその政治システムが ”西欧に定着している制度よりも優れたものだ”、という主張を拡大している。北京はみずからの制度がイデオロギー論争において西欧のそれにまさっているのだ、という主張を明言していて、2013年、周主席は中国共産党に対し、この二つの競合する制度の間の ”長期にわたる協力と衝突“に備えよとの指示を出し、”資本主義は消滅する運命にあり、社会主義が必ず優位に立つ“ と宣言した。

周主席は2017年、中国共産党の目標は中国を総合的国力と国際社会への関与の面で指導的立場に立たせることであり、その基盤が中国的社会主義制度であると述べた。その制度とは、マルクスレーニン主義の北京的解釈と国家主義的、一党独裁主義の結合であり、国家主導による経済、科学技術の展開であり、そのために個人の権利を中国共産党の目的に隷属させることだ。この方針は米国および同様の価値観を持つ多くの国々の代議制政府、企業の自由活動、個人が生まれながらに有する尊厳と価値という原則と相いれるものではない。

国際社会において中国共産党はこの周主席の主張を、地球規模の統治を ”全人類が共通の進路を共有する社会の創設“ なるスローガンのもとで推進している。しかし国内において統一したイデオロギーを強制する試みは、中国共産党指導による社会組織が現実には混乱していることを示している。たとえば、

  • 腐敗撲滅のキャンペーンの名目による政治的反勢力の追放
  • ブロガー、市民活動者、法律家などの不当な弾圧
  • 機械的に計算された論理(訳注 algorithmically determined)にもとづく民族的・宗教的少数者の逮捕拘留
  • 情報、メディア、大学、企業や政府機関の検閲行為の厳重な制御
  • 市民、企業、各種組織団体の監視と社会的信用の評価
  • 反政府分子とみなされた人々の一方的な拘留、拷問、虐待

などである。国内の思想統一行動の驚くべき例として、地方政府が焚書活動を行って、“周思想”への同調ぶりを宣伝したことなどがあげられるだろう。

このような北京政府による統制行動の悲惨な副産物が新疆自治区における、2017年に始まった、百万を超えるウイグル族やそのほかの人種的・宗教的小数グループの思想教育収容所への拘留がある。ここでは強制労働、イデオロギー教育、肉体的・心理的虐待が行われてきたし、これらの収容所の外も警察国家として組織されていて、少数民族を監視し、中国共産党への従属を監視するために、人工知能やバイオテクノロジ―などの先端技術が使われている。宗教的迫害はさらに幅広く、キリスト教、チベット仏教、イスラム教やそのほかの宗派に対しては、無害の信者の逮捕、教義の放棄の強制、教義の伝統にしたがった育児の禁止、などさえ行われている。

中国共産党によるイデオロギーの強制は国内だけにとどまらず、最近では中国政府は他国の国内的問題にも介入してその思想に同調させようとしている。中国共産党は世界規模でその影響を拡大し、最近では、米国、英国の企業活動やスポーツ団体、オーストラリアや欧州諸国の政治機関に接近を図っている。また、中国の持つ技術を利用した権威主義(訳注:techno-authoritarian)を輸出し、権威主義的政治を行っている諸国の市民統制や反対勢力の監視などへの利用、政治宣伝や検閲技術の教育訓練、大衆把握に役立つ大量データの集約方法の使用などを推進しようとしているのである。

中国の党独裁政治は世界一重厚な宣伝ツールを制御していて、北京からの発信は国営テレビを始め印刷物、ラジオ、オンラインなどを通じていまや米国や全世界に氾濫している。外国メディアへの投資がどのくらいあるのか、中国共産党は秘密にしているが、2015年ににはチャイナラジオインタナショナルが外国団体を介して14か国で33のラジオ放送局を支配していること、複数の仲介組織を通じて北京寄りの情報を無料で提供していることが判明している。メディアのほかにも、中国共産党は多くの俳優を起用して米国やそのほかの自由諸国への浸透を推進していて、党の共同戦線(訳注 United Front)組織およびそのエージェントは米国をはじめ各国の企業、大学、シンクタンク,学者、ジャ―ナリストさらに地域や州さらには連邦などの行動に影響を与えて、中国共産党内部に対する外圧の抑制をはかっているのである。

北京は中国国民や関連者に対して、米国の国家及び経済的安全にさらには学界における自由や米国研究開発部門の誠実性(訳注 integrity)さをゆるがすような悪質な行動を継続的に行っている。その例として、技術、知的財産の不当な流用、外国企業との関連性の秘匿、契約及び秘密保護の不正流用を通じて国家予算の研究開発事業への有効な配分を妨害してきた。さらに北京は中国系市民に中国学生の監視を強制し、中国の政治的意向に反した活動に反対運動を行わせ、しなければ、米国教育制度の最大の特質である学問上の自由を束縛すると脅迫さえしている。

さらに党のメディア諸機関、ジャーナリスト、学者、外交官の米国における活動には自由が保障されているにもかかわらず、北京は米国の相当機関に対して相互的な活動を認めていない。政府は駐中国大使を含む米国の高官が、国務省管轄の米国文化センターへアクセスすることさえ、たびたび拒否することがある。これらの場所は米国文化を中国市民に啓蒙する目的で中国の大学が主宰しているものなのである。また、中国共産党について取材しようとする外国人記者は、しばしばいやがらせや脅迫を受けているのが現実である。

3.安全保障への挑戦  Security Challenges 

中国の国力が高まるに連れ、中国共産党がその利益に反すると考える潜在的な脅威を排除し、その戦略的目標を世界的に推進しようという意思と能力も力を得てきた。中国指導者が唱えてきた、脅迫や力づくの行為は行わない、他国の内政に干渉しない、論争の解決は平和的解決による、などと公言してきたことと北京の言動はまったく一致していないのである。北京の言動はその論理に反し隣国に関する自らの約束を軽視して、黄海、東および南シナ海、台湾海峡,中印国境などにおいて軍事・準軍事組織(訳注 paramilitary)による挑発的かつ脅迫的な行為に出ている。

2019年5月、国防省は議会に報告書を提出した。この”中国に関する軍事・安全保障状況(訳注 Military and ;Security Developments Involving the PRC)”は中国の軍事技術的展開、安全保障および軍事的戦略、人民解放軍(訳注 People’s Liberation Army PLA)の組織および運営概念などの現状と今後の展開軌道についての報告である。2019年7月、中国国防相は一帯一路構想は中国人民解放軍念願の海外展開と連携していることを公式に認める発言をした。その対象には太平洋諸国やカリブ海諸国がふくまれているのである。

北京の軍事的増強は米国および同盟諸国の安全保障意識を脅かすとともに世界経済やサプライチェーンに対する複雑な挑戦を意味する。北京の軍民混淆体制(訳注 Military-Civil Fusion MCF) は人民解放軍が先端技術の開発や習得をはかる国家所有及び私企業、大学、そのほかの開発プログラムに抵抗なくかかわっていくことを可能にする。この不透明なMCFの活動によって、米国ほか関連諸国は意識しないうちに、軍民双方に役立つ(訳注 dual-use)技術を中国軍事研究開発プログラムに提供していることになり、中国共産党の国内弾圧の強行能力を高め、米国および同盟諸国を含む外国を脅かすことになるであろう。

中国が意図している不正な手段による地球規模の情報・通信技術の支配願望は、たとえば中国サイバー保障法のようなものに現れている。同法によって、企業は中国共産党が外国の情報にアクセスすることを可能にする中国のデータローカリゼーション技術を使わなければならなくなる。Huawei や ZTE などの中国企業は外国でも中国nの保安機関を通さなければ操業ができないしくみになっているので、このような中国企業の製品・サービスを使用する企業は常に情報漏洩の危険にさらされることになってしまう。

北京はまた、米国へ渡航する中国市民の旅券に米国からの送還を可能にする条項の適切な記載をする、という公約を守っていないので、該当者を米国から帰国させることができず、米国および米国企業に対し、安全保障上のリスクを負わせることになっている。一方で中国は両国間の双務的な領事協定に違反しているため、多くの米国人が中国政府による強制的な出国禁止命令や違法な拘留の危険にさらされ続けていることになる。