”とりこにい” 抄 (3)  1年、夏

高校3年の暮れ、それまでの人生観をがらりと変えてしまった出来事に遭遇した僕は極めて不安定な心理状況のまま大学に進んだ。新しい環境への期待はそれなりに持ってはいたけれども、心の中の不安を拭い去ってしまうなにかが欲しい、という欲求があって、それを期待してKWVに入部した。新しい環境があり、新しい友人もできかけていた。それでも心の奥底にあるもやもやしたものが時として頭をもたげる。そんな心境だった1年の秋ごろだと思うが何となく書き綴ったものを 部誌として ふみあと というのがあることを知って投稿してみたところ、編集をやっておられた丸橋さんの目に留まり、なんと ふみあと10号 の巻頭に載るという光栄に浴した。振り返ってみてなんとも気恥ずかしい独りよがりの文章だが、あのころはこんなにもがいていたんだなあ、と改めて思う。

最後の夏合宿第八班でSLに美佐子を頼んだ

その ふみあと の78ページに小山田(横山)美佐子はこう書いている:

・・・・私の学生時代にはまだ真白いページが沢山残されています。その純白のページを ”やま” という文字で一杯にしようと思ってます。

ミサとは高校3年次に文化祭の委員を通じて知り合って以来の付き合いだが、入部のころの心情がこんなにちがっていたのかなあ、と改めて感じる。ご主人の横山さんは慶応高校からの先輩で家族ぐるみの親友づきあいを御願いしている。

 

急傾斜30度

 

“想い出”とは何だ

ふみしめたビヴラムの間からにじみ出る疑問を

俺はまた考えてみる

急傾斜30度

遠いコルへつづくトレイル

踏みしめても ずりあがっても まだつづくザレ道

にらみつけても けとばしても トリコニイに食い込む石コロ

俺はまた考えてみる 

”人間に記憶は必要だろうか”

澄んだ空には空虚 微風には虚無

カメラ―トの声の聞こえない孤独

泣こうと わめこうと もだえようと こびりついてはなれない ”想い出”

ー 逃避ではない山歩きがしてみたい

なにかの文章を思い浮かべながら

俺はまた 考えてみる

けとばしても ふみつけても トリコニイに食い込む石コロ

そいつに ”お前” と呼びかけたくなって

そっと草かげへ転がした俺

急傾斜30度

トレイルはまだ つづいている -