エーガ愛好会 (123) ジェシージェームスの暗殺   (34 小泉幾多郎)

西部開拓時代南北戦争の南部の生き残りの荒くれ男たちを纏め上げ、犯罪を繰り返した無法者のリーダー、ジェシー・ジェームスの後半生の伝記。ニュージーランド出身のアンドリュウー・ドミニク監督が、ジェシーにブラッド・ピット、その部下ロバート・フォードにケイシー・アフレックを起用し、ジェシーに憧れ信頼を得ようとしながらも殺意を感じる何かもの悲しい奇妙な関係を描いている。ピット扮するジェシーは、リーダーとしてのカリスマ性、自己中心的な傲慢な、きれ易く疑心に溢れたかと思えば、狂気な眼で相手を威嚇したりの性格。アフレックのロバートは、なんとかして憧れのリーダーに取り入ろうと努力するも、カリスマ性のある自分の世界を持っているリーダーから心許されないジレンマを持つといった二人の関係が遂に殺害にまで達するのだが、この二人の間に生まれた特異の演技には魅せられる。ピットはヴェネチア国際映画祭男優賞、アフレックはアカデミー助演男優賞賞ノミネート他各賞を受賞している。

西部劇とはいうものの、英雄的ガンマンの活躍、痛快な西部の犯罪溢れる射ち合いや殴り合いといったおおらかな痛快さは殆んど見られず、地味で淡々とした芸術的ドラマの様相を呈している。2時間半ジェシーとその仲間同志が疑心暗鬼の腹の探り合いの緊張感たっぷりは少々きつかった。それを補って余りあるのは、撮影センスの素晴らしさ、撮影監督はアカデミー撮影賞ノミネートのロジャー・ディーキンス。

冒頭から最後の列車強盗と言われる描写で、暗闇から列車が現われ林に潜む覆面強盗団に、列車のライトが明滅すると、急停車する車両の火花といった光の光景が芸術的といったように、全体的に自然の写し方が美しい。ジェシーが金色の麦畑で沈みゆく太陽を見つめたりするシーン等西洋美術作品を観ているような感覚になる。

ジェシーは「地獄への道」のタイロン・パワーに感じられた情熱も正義感も見えない別人で、仲間に対して持つ疑心暗鬼がひしひしと伝わって来る。それ以上に、ロバートはジェシーへの屈折した怒りや憎しみ、殺さなければ殺されるところに追い詰められて殺しに至るまでの姿に緊張が高まる。

殺しの場面、自宅で額縁の埃を羽箒ではたくジェシーの背後から自分が呉れてやった拳銃の撃鉄のカチリという金属音で狙われている音は聞こえている筈だが、其の侭背後から撃たれ倒れる。敢えて凶弾に身を任せたようにも受け取れる。疑心に苛まれた自分自身に嫌気がさしているかのようにも見えた。この後も映画は続くが、信じられないことばかり、ジェシーの死体の写真が複写され売りに出されたり、ジェシーを撃ち殺す場面をロバート自身が劇場で演じまくったり、遂にロバートはある酒場で、義憤に駆られたエドワード・オケリーという男に撃ち殺される。ロバートは悪党を退治した英雄としてではなく、汚辱に満ちた生涯を終え、反対にジェシーは西部の義憤のヒーローとして、その名は高まった。

蛇足ながら、ジェシー・ジェームズ登場の映画で日本公開されたものを調べてみると下記18作品にも及ぶ。残念ながらそのうち観た映画は「地獄への道」「命知らずの男」「無法の王者ジェシー・ジェイムス」「腰抜け列車強盗」「ミネソタ大強盗団」「ロングライダーズ」「ジェシー・ジェームズの暗殺」の7作品に留まる。

「ジェス・ジェームス1927」「地獄への道1939」「復讐の六連銃1941」「地獄への挑戦1949」「平原の勇者1949」「命知らずの男1950」「無法一代1951」「荒野の三悪人1951」「私刑される女1953」「拳銃が掟だ1953」「無法の王者ジェシー・ジェイムス1957」「地獄の分れ道1957」「腰抜け列車強盗1959」「ミネソタ大強盗団1959」「ロングライダーズ1980」「ワイルドガンズ1994」「アメリカン・アウトロー2001」「ジェシー・ジェームズの暗殺2007」

(編集子)小生が見たのは 地獄への道 ワイルドガンズ ロングライダース の三作、いずれも セーブゲキ の王道?を踏んだ作品だ。ドクター小泉のプロ裸足の眼からご評価は高いようだが、審美眼を持ち合わせていない小生には、ご指摘の列車が近づいて来る場面を見たとたん、どうもこれは 王道セーブゲキではないな、という直感があった。先般のカンパ―ビッチの作品もプロの評価は非常に高いようだが、いずれも映画作品としての評価であって、小生ごときが云々することはないのだが、セーブゲキ を見たい人間にはどうもすっきりと心に落ち込んでこなかった。