久しぶりの映画館での鑑賞。
西部劇とは言うものの「ピアノレッスン」のジェシー・カンピオン監督・脚本作品でアクション要素一切なし、愛憎渦巻く人間模様とその果てという心理スリラーとでもいうべきか。英・豪・米・加・新NZ共同制作で舞台は1920年代西部開拓時代の遺風が色濃く漂うモンタナの地だがロケは、ニュージーランドで行われた。題名は旧約聖書詩編の一説「私の最愛の人を邪悪な犬の力から救い出してください」から付けたとのこと。
牧場を営む対照的な性格の兄弟が主人公で、兄フィルは、TV「シャーロック」で新時代のシャーロック・ホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチが扮し、威圧的で独善的な面はあるが、働き者で有能なリーダーであり、牧場で働く者は誰もが、フィルに敬意を示す。弟ジョージ(ジュシー・プレモンス)は温厚だが気弱な性格。ある日、牛の移動に際し、牧場の使用人一同と未亡人ローズ(キルスティン・タンスト)とその息子ピーター(コティ・スミット=マクフィー)が経営するレストランで食事をすることになる。ピーターは外科医を志すも。華奢で男らしさとは無縁、喧嘩等出来そうもなくカウボーイたちからはお嬢さんと馬鹿にされる。そんな中ジョージとローズはあるキッカケから親密になり結婚することになる。このように兄、弟その妻、その息子と性格の異なる4人の関係は濃密・濃厚な人間のドラマを生む素地を作っていくのだった。兄は溢れるカリスマ性、タフな精神、女々しいものへの嫌悪から、義妹になるローズを、連れ子のピーターをいじめぬく。ところがある日からフィルとピーターが親密になっていく。フィルの知られざる秘密ゲイ的嗜好がピーターによって明かされてきたのだ。最後は、材木の下にいる兎を獲ろうとして手に怪我をしたフィルにピーターが黴菌の付いた生皮を送り、フィルはその黴菌の感染がもとで、炭疽菌で死に至るのだった。フィルの野蛮なる日常に対し,連れ子ピーターの蜜やかな復讐の計略が淡々と進められたのだが、実際問題としてフィルの行為が死を与える程の悪行であるのか?と考えると疑問な点も残る。
まあいずれにしても、善玉悪玉の単純な西部劇を観てきた年寄りにとって、このような美しく広大な風景の中に描かれる人間の負の感情、嫉妬、怖れ、怒り、嫌悪といった緊張感が漂い、暴かれる男らしさの正体、役者たちのアンサンブルの見事な効果等濃密な人間ドラマに見ていて息苦しくなったことも事実だ。
帰りに、久しぶりの西部劇を劇場で観たことの記念と内容的に疑問の点もあり、売店でプログラムを購入しようとしたが、この映画は、プログラムなしの映画で、ありませんとのこと。この映画ではプログラムは売れないとの判断なのか否か、意味不明。
(菅原)最近の西部劇は、「荒野の決闘」が、まるでお伽噺。新宿御苑の紅葉の方が遥かに馴染めます。
先日、CATVで見た「荒野のストレンジャー」(原題:High Plains Drifter。1973
年)。7月17日(ただし、年は不明)、NHK BSプレミアムでやったらしいので、先輩の卓抜な感想がある筈。従って、ここでは屋上屋を架すことはしない。
イーストウッドこと東森の2作目の監督作品で、初めての西部劇。これは、日本語の題名をもじると、何ともストレンジな西部劇。悪(保安官を殺した町民)が悪(東森)をもって悪(出所した3人組)を征する。例えば、「シェーン」で代表される清く正しく美しくとは凡そ縁のない西部劇。こう言うのをアンチテーゼって言うんですか(一度、この言葉も使ってみたかった)。
最後は定石どうり馬に乗って東森は去って行くのだが、ほかの町でまた悪さをしでかすのは間違いない。これがニューシネマなんですかね。と言うのが小生の感想ですが、先輩はどうお考えでしょうか?
(編集子)この作品もそうかもしれないが、小生もスガチュー君の感想に組するものである。映画という表現形態をとってあらわされるものが何かはもちろん固定的なものではありえない。だが西部劇、という、ま、滅びゆくジャンルかもしれないがそれが持つイメージはそっとしておいてほしいものだ。しかし世の中のエラーい先生方の評価はそういう原点には無関係であるようだ。ウイキペディアの本稿の執筆者がどういう人物なのか知る由もないが、解説の一部はこうなっている。
本作は批評家から絶賛されている。Rotten Tomatoesでは27個の批評家レビューのうち96%が支持評価を下し、平均評価は10点中8.5点となった。サイトの批評家の見解は「ベネディクト・カンバーバッチを中心とした輝かしいアンサンブルによって生命を吹き込まれた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、ジェーン・カンピオンが、同世代の作家の中で、最も優れているうちの1人であることを観客に再確認させる。」となっている]。MetacriticのMetascoreは14個の批評家レビューに基づき、加重平均値は100点中90点となった。サイトは本作の評価を「幅広い絶賛」と示している]。『インディワイヤー(英語版)』のデヴィッド・エーリッヒは、「『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、あまりにも早くいそいそと観客に牙を突き立ててくるので、エンドクレジットが終わるまで、あなたは自分の肌が刺されていることに気付かないかも知れない。しかし、この映画のエンディングが齎すゆっくりとした嚙みつきは、見る者に十分な傷跡を残すことには変わりない。」と表現し、映画の鋭さを賞賛した……..云々だよ、菅原君。
(小泉) 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のこと。西部劇の爽快さは期待できないことから、積極的にお勧めする映画とは言いませんが、感想の通りです。ベネディクト・カンバーバッチはじめとする俳優陣の演技力は中々なものと思われました。端的に言えば、西部劇の中に濃密な人間ドラマを取り込んだ映画。西部劇という神話、威圧的、独善的で男性らしさの象徴であるカウボーイが誇示する、リーダー的存在を、華奢で男らしさとは無縁のか弱いローズの息子ピーターが、じわじわと復讐を遂げるねちっこさ。本当に強い男とは誰なのか、といった逆転の発想とか、面白くはないが、無視するほどではないかと思われます。
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