エーガ愛好会(87)   運び屋   (34 小泉幾多郎)

クリント・イーストウッドの10年ぶりの監督主演作。                         第二次世界大戦に従軍した退役軍人がデイリリーという植物の栽培で成功し、園芸家として名を馳せるが、その後時代の変化に取り残され。自宅を差し押さえられたりした頃、得意としている車の運転だけすればよいという仕事を持ちかけられるが、実はメキシコ麻薬カルテルの運び屋だった。このやばい稼業に手を染めながらも、家族を顧みなかったことを改めて反省し、家族との絆を再生するという話。NYタイムス紙別冊の記事「90歳の運び屋」に着想を得たとのこと。

娘の結婚式にも出席せず、妻や娘から総スカンを食いながらも、運び屋になったからには、新しい仕事に熱心に取り組むサマがいじらしい。全体的に、運び屋とそれを追う警官たち、緊迫感溢れる題材ではあるが、逆にゆっくりしたテンポで進み逆に心地よい。警官に追われ、麻薬探知犬が覗いても、臭い消しのようなクリームを塗り付けて防止したり、黒人の若者夫妻がパンクで困っているのを見
付け、「タイヤ交換ぐらいできなくてどうする」と活を入れながら手伝ったり、麻薬組織の連中も優しく付き合うところ等ユーモアも交える。これが最後に近く、組織のボスが代わり、仕事を強制され、妻が急に亡くなることにより、これまで逃げてきたことや眼を背けてきたことから向き合うことになり、運び屋の間違いと家族を悲しませてきたことへの反省、若干ありきたりの結末ではあるが、人間ドラマは刑務所に入って終わる。最後刑務所で植物デイリリーを育てる場面で終わるが、これまで運命から逃げ続けてきた罪滅ぼしか。

閉幕後、スタッフの字幕に歌が重なる。・・・老いを迎え入れるな、もう少し生きたいから。老いに身をゆだれるな、ドアをノックされても、ずっとわかっていた、いつか終わりが来ると。立ち上がって外に出よう、老いを迎え入れるな。数え切れぬ歳月を生きて、疲れ切って衰えたこの体、年齢などどうでもいい、生まれた日を知らないのなら。妻に愛を捧げよう、友人たちのそばにいよう、日暮れにはワインで乾杯しよう、老いを迎え入れるな。老いが馬でやって来て、冷い風を感じたら、窓から見て微笑みかけよう、老いを迎え入れるな。・・・クリント・イーストウッドの気持ちが込められている。老いの身に、しみじみと突き刺さる。

(編集子)小泉先輩、感情移入の具合がしみじみと突き刺さりますなあ。

(小川) 小泉さんの名解説とジャイさんのコメントをブログで見て、「運び屋」をアマゾンプライムで検索して観ました。

クリント・イーストウッドの爺さん、自分に照らし合わせて観て、我々もあんな爺になっているのかと、何となく寂しい想いで…。それにしても同世代が観るにはなかなか深い想いが残るエーガでした。名解説に引き込まれる気持ちで2018年という新作でも実に感動した作品でした。「老いを迎い入れるな!」は将に我々同世代へのメッセージ、デイリリーは一夜花、実に素敵なメッセージがありました。ご紹介有難う。

*「風立ちぬ」が冒頭にありましたが、来月信濃追分にある堀辰雄の住まいに娘たちの運転で出掛けるつもりです。 老いは迎い入れな~い!