南北戦争当時1860年代初頭のアメリカは、奴隷制に基づく農業に立脚した経済基盤のアメリカ連合国・11州(南軍)と、奴隷制を必要としない工業に立脚した経済基盤のアメリカ合衆国23州(北軍)に分断されていた。アメリカ国内のいわゆる南北問題が南北戦争であった。北軍の勝利によって、南軍・アメリカ連合国は消滅し、合衆国に吸収されたのが156年前だ。
爾来、分断の有り様が変化したのが今日の現実だ。経済格差による分断、都市居住者と地方・田舎・郊外居住者による分断、宗教による分断、人種による分断、享受した教育による分断、党派による分断、ホワイトカラーとブルーカラーによる分断など、分断を生じさせる要因が複層的に交錯して複雑な分断の様相を呈している。一枚岩で国を運営することなどとても無理だと思われる。
近世以降の世界覇権の推移を観ると、アングロサクソン勢 (イギリスに20世紀以降はアメリカが加わる) に対する他勢力の挑戦という形で歴史上現れている。全てアングロサクソン勢が勝利している。挑戦した勢力は、16世紀後半の中南米植民地から富を得て無敵艦隊を擁したスペイン、19世紀初頭のフランス・ナポレオン帝政、20世紀の第一次・二次世界大戦に於けるドイツ、さらに日本・イタリア、第二次世界大戦後冷戦で覇を狙ったソ連。現在では、アングロ・サクソン勢にカナダ・オーストラリア・ニュージーランドが加わっている。
そして現在21世紀に入ってからは中国が覇権を争うかの様相を呈している。専制独裁政権の迅速な意思決定と強権に基づく国力の統合集中運用という特長を最大限に活かすであろう中国に対して、民主主義の弱点とも指摘される意思決定の緩慢さ・国論の分散分断を克服して難局に対応せざるを得ないアメリカの今後は大いに気になる。
国力は軍事力、経済力、技術力、教育力などの総和によって推し量られるであろうが、最も重要な「力」の源泉の一つは、世界で尊敬を勝ち取るべき理念のソフトパワーであろう。文化発信力をも加えた自由、公正、公平、平等、民主的価値観の理想と理念と言い換えても良いだろう。これを持ち得ない国が力尽くで覇を唱えることは不可能だし、覇権を狙っても困るし、絶対に阻止せねばならない。
こういった点で、アメリカの利己的な「America First」では困るのである。ソフトパワーの見えない「尊敬を勝ち取っている」という武器に基づき、ハードパワーにも物を言わせて世界の発展、秩序維持に引き続き平和的に貢献してもらわねばならない。大統領選挙で鮮明になった国の分断、国民の分断という難局を乗り越えて、アングロサクソンの盟主として、民主主義国家の代表として全体主義的覇権国家に対峙し、これを抑え込んでもらう使命があると思っている。
巨大な14億の人口を擁し、孔子・孟子・孫子・韓非子など世界に冠たる思想家をも輩出している中国は、これまでの挑戦者とは別格の強さがあると覚悟する必要があろう。
アメリカよ、バイデンよ、しっかりしろ、と言いたい。
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