エーガ愛好会 (19) ”オデッサ・ファイル” 

80年代、僕らがサラリーマン真っ盛り、方や世界情勢が冷戦構造で回っていたころ、いろんなうっ憤を晴らすはけ口の一つがその頃台頭してきた新進作家の一連の冒険小説だった。このころの小説のテーマは、今日のようにドラッグとかムスリム問題ではなく、国際紛争とかまだ色濃く残っていた第二次大戦の傷跡と言ったものが多かった。勝手に思い出すに、ロバート・ラドラム,トム・クランシー、フレデリック・フォーサイスなどがいて、すでにベテランとしての地位を築いていたジャック・ヒギンズなどと読み比べたりしたものだった。ヒギンズにはヴァルハラ最終指令 と サンダーポイントの雷鳴 という2作がこのあたりのうわさや史実をもとに書かれている。

これら一連の作品の中で、しばしば顔を出したのが旧ナチ・ドイツのいわば負の遺産だった、ユダヤ人に対する人道的犯罪が国際的なグループによって追及され、ドイツを逃れて潜伏していたナチの旧幹部らが発見された、という記事もたびたびあった。当時売れっ子だった落合信彦によれば、彼らはなんとバチカンを後ろ盾とする秘密の工作によって、瓦解寸前のドイツを脱出、南米にいる、ということで、彼の著作には実際にその潜伏の現状を取材した、とするものもある。ただこの人の記述には明らかな創作あるいは歪曲があるとして、毀誉褒貶、なかばというのが現実だ。ただ、彼の本の中に 2039年の真実 というのがあって、米国の国内法の規定によって、その年まで公開することができないケネディ暗殺事件の真相が公開される、というのがある。小生がそれを読むことはまずありえないのが残念至極ではあるが。

この一連の流れの中で、オデッサ という組織があった、という話が出てくる。この組織の存在そのものについても疑義があるようだが、わがウイキペディアは明確に 存在した、と記述している。 オデッサ とは ドイツ語の名前で、 Organization Der Ehemaligen  SS-Angehorigen   (旧SS所属者のための組織)の頭文字である。単に Odessa と言えば安田君が後述するように、ウクライナの主要な都市のひとつであり、調べてみるとアメリカには同じ名前の都市が7つ、存在する。おそらくウクライナ近辺からアメリカに渡った移民の人たちが創った街ではないかと想像するが、フォーサイスは(原文は覚えていないが)ヒット作の一つである オデッサ・ファイル の冒頭に、この題名はこれらの都市の名前とは関係ない、と明記していた。

さてこの SS というのが肝で、長くなるのでドイツ語名は省略するが、親衛隊、というヒトラー直属の組織で、最盛期には125万人の規模であったという。中には西欧第一の武力組織だったとされる武装SSや、ヒトラーに最も近い存在だったという突撃隊SA そのほかがあり、有名な情報組織と警察権をもって人々を震え上がらせたゲシュタポとで、ヒトラーの独裁政権の実行部隊であった。これらの組織こそ、ヒトラーの妄想であるユダヤ人種抹殺計画や強制収容所の運営に当たっていたとして、戦後、人間の尊厳に対する罪 に問われ、多くが逮捕処罰を受けた。ODESSA は此の対象となるSS幹部を国外に逃すための組織であった、ということである。

前述したヒギンズの サンダーポイントの雷鳴はその中でも大物中の大物、マルチン・ボルマンのベルリン脱出から始まる話で、当時英国の指導部にはナチと通ずるものがいて、旧悪の暴露に直面する、という話である。英国出の親独派は、ヒギンズの出世作 鷲は舞い降りた や ウインザー公略奪 にも重要な役目を果たす。このあたり、欧州の仕組みというか歴史は誠に面白いものがある(少し前の本稿で ダブルクロス という本について書いたが、これに述べられている史実もまさに奇々怪々、という部分が多い)。

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(44 安田耕太郎) BS劇場で オデッサ・ファイル を観ました。社会人になって間もない1970年代初め、英作家フレデリック・フォーサイスのベストセラー処女作「ジャッカルの日」と「オデッサ・ファイル」を続けて読みました。両方とも面白かったという記憶が残っています。ドゴール大統領暗殺を画策する暗殺者と阻止する権力側の死闘の物語「ジャッカルの日」は映画でも観ましたが、「オデッサ・ファイル」は初めて。

アメリカン・ニューシネマの代表作「真夜中のカウボーイ」でダスティン・ホフマンと共に好演したジョン・ヴォイトが主役ということで注目して観ました。30歳前後と若いヴォイトです。

ヴォイトの第一印象は娘のアンジェリーナ・ジョーリーは父親の彼にそっくりだということ。西独のジャーナリスト役で、元ナチのための秘密支援組織「オデッサ」との間の暗闘を描いた映画。映画タイトルは、元ナチ親衛隊達の顔写真、名前、所在などを記録したファイル「オデッサ・ファイル」の名称にちなむ。そのファイルをひょんなことから入手したヴォイトは元ナチ親衛隊のひとりになりすまし、「オデッサ」組織内部へ侵入する。年配者になりすました彼の変装や所作、表情はなかなかのもの。50年前の映画なので映像的な迫力は今一でしたが、緊迫感を保ちながら魅せてくれた2時間でした。

若い一人の西独記者がオデッサの過去とその罪悪を暴く熱意に「何故そんなに危険を冒してまで」と不思議でしたが、映画のエンディングに彼の執着した理由が明らかになり納得させられました。ファイルの中にドイツ国防軍大尉だった父親が、ユダヤ人強制収容所の所長だった男(マクシミリアン・シェルが好演)に逆らったとの理由で殺害されますが、その詳細が記録としてファイルに載っていたのです。1961年映画「ニュールンベルグ裁判」でアカデミー主演男優賞を獲得した悪役シェルの演技も見応えがありましたし、彼の姉マリア・シェルがヴォイトの母親役を演じているのも、スリルとサスペンスのストーリー映画を何かしら和ましてくれました。

1960年代から1970年年代初めにかけては、第二次世界大戦、ナチ、東西冷戦、西欧旧宗主国に対する旧植民地国の暗闘などに関連する映画が多く造られたが、「オデッサ・ファイル」もその代表作のひとつ。なお、オデッサは現ウクライナの主要都市で黒海に面した港湾都市。元ナチ党員は史実として南米などへ逃避したのは知られており、実際に映画「オデッサ・ファイル」で描かれたいような組織ぐるみで戦犯者を匿い守ろうとする存在があったことに改めてやはり驚かされる。有名な例として、元ナチ親衛隊将校、ゲシュタポのユダヤ人大量虐殺に関わったアドルフ・アイヒマンはアルゼンチンで逃亡生活の末イスラエル諜報機関モサドによって逮捕され、イスラエルに連行され、1962年、裁判の後、絞首刑に処されました。実際のオデッサ・ファイルの発見はそのアイヒマン事件の2~3年後になりますが、作家のフォーサイスは多分、その辺の動向を興味深く観察し、小説の題材として調べつつ温めていたのであろうと思われます。

(43 保谷野伸)オデッサ・ファイル、ビデオで観ました。ナチ親衛隊の残党を追う、サスペンス&スパイ映画だったのですね。確かに、アイヒマンを思い出します。
私は、この映画も、フォーサイスの小説も全く知識が無く、白紙の状態で観ましたが、ストーリーも面白く、「中級娯楽映画」としてまあまあ楽しめました。
ただ、結末もあっけなく、ヒチコック映画と比べると、少々物足りない気もしましたが・・・・映画観てから貴君の感想読んで、ジョン・ヴォイトやマクシミリアン・シェルのこと等知りました。ありがとう。