エーガ愛好会 (322)シヤイアン    (34 小泉幾多郎)

1878年アメリカ政府の政策により、故郷のワイオミング準州イエローストーンから、オクラホマ準州のインディアン居留地に強制移住させられたシャイアン族は、病気と飢餓のために、仲間の三分の二が死んで行った現状を打破すべく、内務省先住民局を訪れ、現状を訴えようとしたが、政府委員会の役員は現れず、その理由が、今夜の将校の舞踏会に差し支えるという、シャイアンを小馬鹿にした態度が映画の始まり。痺れをきらしたトール・ツリー(ビクター・ジョリー)、リトル・ウルフ(リカルド・モンタルバン)、ダル・ナイフ(ギルバート。ローランド)の3酋長は相談の上、生き残った人々を引き連れ、故郷のイエロー・ストーンに帰ることを決定する。

それを知った政府軍は、すぐさま討伐軍を派遣する。討伐軍の将校アーチャー大尉(リチャード・ウイドマーク)は、シャイアン族に同情的ではあったが、一行の中に婚約者のデボラ(キャロル・ベーカー)がいることを知り、任務のため追討しなければならなかった。やがて両者の間で過激な戦いが始まる。特に、スパニッシュ・ウーマン(ドロレス・デル・リオ)といわれる、その息子レッド・シャツ(サル・ミネオ)が好戦的で、白人側も8人の戦死者を数えた。このニュースも8人から16人、24人とエスカレートし人々の憎悪を煽ったのだった。

物語は、前半からシャイアン族を主体に、それを追う騎兵隊の展開がすすむが、背景となる景観は、ウイリアム・クロ―シャー撮影監督の下、フォード映画では、お馴染みのモニュメント・バレーが今回も舞台に選ばれ、視覚的に非常に美しき風景と共に、行進する人々のシルエットにも詩情を感じる。飢餓と不正義に耐えかねて、故郷を目指しして旅をする民族の尊厳と自由を求める闘いは、アメリカ社会の葛藤そのものだった。アカデミー色彩撮影賞にノミネートされている。この景観に歴史ものの音楽で成功を収めているアレックス・ノースの音楽が劇的にマッチしている。

シャイアンが来るという噂で、ダッジシティは恐慌状態になり、市民軍が結成され、ワイアット・アープ(ジェームス・スチュアート)が隊長に、ドク・ホリディ(アーサー・ケネディ)、のほか、ジェフ・ブレア―(ジョン・キャラダイン)も加わる。その3人がポーカーを始めた頃、インディアンを殺し、頭皮を切り取った4人組と酒場のマダムに収まるミス・プランジェナット(エリザベス・アレン)が一騒動起こす。この騒動が、特にこのストーリーに直接関係するとは思えない。ワイアット・アープ他二人と酒場でのつまらないエピソードと酒場マダムとの野外での疾走シーンとも、独立した話のようで、こんな話は、B級映画と同じく何と下らない映画を作ってきたことか?と反省すると辻褄が合うようだ。このエピソードの損害は、絹のドレス1枚。

冬が近づき、シャイアンは大草原を進み、鉄道の突破に成功することもあったが、寒さと雪に悩まされ、フォートロビンソンのウエッセルズ大尉(カール・マルデン)に降伏したものの、居留地に戻せという命令が届き、居留地へ連れ戻されるより、死んだほうがいいと思ったシャイアンは大部分が倒れながらも遁走し洞窟に隠れた。其処へ騎兵隊が現れ、大砲を向け、もはやと思われたが、事前にアーチャー大尉が、打ち合わせしたカール・シュルツ内務大臣(エドワード・G・ロビンソン)と共に、リトル・ウルフ(リカルド・モンタルバン)とダル・ナイフ(ギルバート・ローランド)と会い、「シャイアンが父祖の地に戻りたいのは、尤もであり、真相を知れば、白人も理解する」と説いた。二人の酋長も同意した。その後シャイアン内部では、リトル・ウルフとレッド・シャツが撃ち合い、レッド・シャツは息絶えた。自分の種族を殺したリトル・ウルフは一人、放浪の旅に出た。デボラとアーチャーは、シャイアン達が嬉々として緑の谷へ向かうのを見守った。

フォード映画の常連ベン・ジョンソンとハリー・ケリーJr.の両名、キャストに
載っていないが、馬上で出演とのことで、探したら、2回出てきた。開幕40分後、二人偵察を指示され、ベンの馬が撃たれるも、ハリーの馬に同乗し帰還。更に開幕1時間40分後、二人は川を渡り、ハリーがデボラ記載の日記帳らしきものを見付け、拾い上げアーチャー大尉に手渡す。「黄色いリボン」から10年以上経っているのに、二人共動きが速い。それにしても、今回のキャスト、これまでのフォード作品に出ていないような俳優たちを選択したものだ。主役のリチャード・ウイドマークは、「馬上の二人1961」での相性の良さからも、ピッタリの適役で、部下のジョン・ウエインの息子パット・ウエイン扮するスコット少尉に、シャイアンの扱いにつき、勇敢と蛮勇であることは違うのだと念を押すように、インディアンに深い同情を寄せながらも、非情な行動をとらねばならぬ難しい役柄に挑んでいる。相手役のキャロル・ベーカーもインディアンと苦労を共にする若い女教師という役どころは、気丈な娘として、風雪の中を生き抜く女性像を演じてきた女優として適役だった。白人側の要職者、エドワード・G・ロビンソン、カール・マルデン。アーサー・ケネディやシャイアン側の主役の面々ビクター・ジョリー、リカルド・モンタルバン、ギルバート・ローランドにサル・ミネオ。シャイアンの女性ドロレス・リオ。ダッジシティでスカートを剥ぎ取られながら駆けずり回るエリザベス・アレン等々フォード映画初登場、遅まきながらもフォード一家の誕生ということにもなる。

以上概要だが、ジョン・フォード最後の西部劇、途中にお遊びも入れたところもあるが、円熟の極致に達した集大成と言っても良いのではなかろうか。

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シャイアン(Cheyenne)とは、アメリカ合衆国インディアン部族の一つ。ワイオミング州の州都シャイアンはシャイアン族に因んでいる。

ワイオミング周辺を領域とした「北シャイアン族」と、オクラホマ周辺を領域とした「南シャイアン族」の二大支族に分かれる。現在も同盟関係にあるダコタ・スー族が彼等を「わからぬ言葉を使う人」と呼んだのが訛ってシャイアンと呼ばれるようになった。

シャイアン族とスー族はブラックヒルズなどをめぐり敵対関係にあったが、後に北方シャイアンはダコタ・スー族と同盟関係になり、リトルビッグホーンの戦いではダコタ・ラコタのスー族と、同じく同盟関係にあったアラパホー族の連合軍が、カスター中佐率いる第七騎兵隊を壊滅させた。