”きな臭い話” について   (44 安田耕太郎)

別報菅原さんの問題提起についての私見です。

① 習近平の最新の発言「台湾問題の解決は中国人自身のことであり中国人自身が決めるべきだ。祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」。任期中の台湾統一で歴史に名を残す野心と欲望の程度と、統一を成す過程の予見される難儀と困難の程度のバランスを如何に計算・予想しているのか?
② 台湾国民の過半数以上は「武力統一を中国は選択することはない」とのやや希望的観測が支配的との報があった。これが事実だとすれば、中国との宥和策を採る国民党政権の誕生も強ち無いとは言えない。習近平にとっては濡れ手に泡、そうなれば深刻な武力衝突なしの統一もあり得る。僕はこのシナリオの可能性は低いとは思う。総統選と立法選の結果がねじれ現象となる可能性も低いと予想するが、もしそうなる場合は、総統は民進党、立法は親中の野党が多数となる ねじれ だろう。混沌とした予想困難な状況になる。台湾国民には、香港の状況を観て、中国による統治がもたらす惨状を深く考えてもらいたい。
③ 習近平は過去の歴史を学習していると思う。シリアのアサド政権転覆を意図した米欧に対してプーチンの強面態度にオバマは譲歩して弱腰を見せたアサド独裁専制体制を延命させた事実、更にプーチンのクリミヤ併合時の西欧側の弱腰、ウクライナ戦争における米・西欧勢の腰砕け的サポートと民主主義の弱点である世論の不統一性を観ているはず。それらの弱点を中国は武力統一を選択する場合のシナリオとして想定・考察する可能性を否定できず、米・日・西欧民主主義勢を甘く観る可能性がある。そんな観測で武力統一に進むシナリオは最悪だ。
④ 外からは充分且つ正確に知り得ない中国の国内問題が顕在化・深刻化し、国内問題の火種を隠すため、台湾統一に突き進むことで歴史に名を残す野心と習近平自身の保身・権力維持のを目的として選択する可能性は否定できない。
⑤ 台湾選挙の結果は予断を許さないが、民進党が引き続き政権を担当すると予想(期待)する。しかし、その場合は上記に挙げた種々の点で状況は複雑且つより困難になるだろう。
⑥ 鍵の一つは、アメリカの国内問題の制御、国力維持と政治と経済の安定。リーダーシップの安定・強固さ・果断さ・世論の統一性の問題などが国際問題にも大いなる影響を与えるはず。アメリカが結果として台湾併合を許せば、米中の覇権争いに新たな絵が描かれるのだろう。モンロー主義的傾向が強いアメリカの政権も国民もそれを良しとはしないだろう。更に民主主義体制 vs 独裁専制体制の力関係にも影響が及ぶ。中国が武力統一を選択した場合、アメリカは民主主義の盟主として武力で応戦するのか?日本は否応なしに当事者の一国として巻き込まれるのか?それとも張り子の虎のモンロー主義を貫くのか?
⑦ 中国は今にも武力行使開始を匂わせる脅しを徹頭徹尾行い、台湾からの白旗を期待しているのではないか。ウクライナ戦争でも彼我の軍事力の差があるのに決着はつかず、痛みは甚大。中国は同じ轍は踏まず、かつ外にはそれを容易に感づかせずに、自分に利するシナリオを実行したいのではないか?