エーガ愛好会 (168) スティング

(安田)題名のスティング(Sting)は(蜂が、或いは針などで)刺すこと。文字通り、悪者をイカサマで騙し、刺す痛快な犯罪コメディー映画。

筋書きごとにイラストを使い短い言葉でストーリー展開を示唆したのはとても洒落ていた。その言葉は順番に、The Set-Up(計略)、The Hook (引っ掛け)、The Tale (筋書き)、The Wire(電信)、The Shut-Out (締め出し)、The Sting(信用詐欺)。それらの言葉を表す歯切れのよい陰謀含みのストーリー展開は2時間10分の映画を通して飽きさせない面白さがあった。

まず、驚いたのは主役の一人ロバート・レッドフォードの役名がジョニー・フッカー(Hooker)だったこと。Hookerは米:英国では誰でも知っている俗語で売春婦の意味。コメディー映画らしいユーモアに溢れている演出だと思った。実社会でも映画でもHookerの名前も持つ人を他には知らない。アメリカン・ニューシネマの代表作「明日に向かって撃て」で共演した主演のポール・ニューマンロバート・レッドフォードは、年齢的にもキャリア的にも脂が乗り切った男振りでアカデミー作品賞受賞に相応しい役どころを貫禄充分に演じた。11歳年上のニューマンが兄貴役、レッドフォードがやんちゃな弟役をこれ以上のコンビはいないと思わせるほどに好演したと思う。世界恐慌後のすさんだアメリカ社会の底辺を舞台に、マフィアのボスを相手に、二人が知恵を絞ってplotを駆使していく様子は痛快。騙される・刺される悪役はイギリス人俳ロバート・ショウが演じた。「007 ロシアより愛をこめて」のボンドを脅かす怖い刺客役、更には「バルジ大作戦」の敵方ドイツ軍の戦車部隊長役に続いて、馴染みのある風格ある憎まれ役を主役二人に位負けせず堂々と演じたのが印象的だった。

笑いを誘う計略・陰謀・詐欺まがいの愉快なシーンの連続であった。大がかりな偽馬券売り場を造ったり、仲良くなった料理店の女給仕が実は敵方の殺し屋だったり、想定を超える演出が散りばめられていて楽しめた。だが、流石に映画エンディングの結末には驚かされた。まさか、FBIまでもが騙しストーリーの片棒を担いでいたとは魂消た。テーマ曲「エンターテイナー」も禁酒法時代の雰囲気にピッタリで、痛快な映画を軽やかに盛り上げていた感を強くした。

(船津)「騙す」騙されはイャってほどあじわいましたが、まぁこのぐらい軽快に騙せば良いなぁ!!!!

(相川)「スティング」は 私のお気に入りです。 「楽しくなる映画」です。ピアノ演奏で始まる「エンターテイナー」もよかった。最近この手の映画は見かけなくなりました。

(保屋野)掲題、初めて観ました。愛好会の「映画ベストテン+5」でも3票入っていましたね。チビ太の感想に、ほぼ同感です。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードという名優の競演とテーマ曲、傑作の一つだと思います。 ただ、ストーリーは、(用心深い)ギャングの親分が、殺し屋を差し向けた詐欺師に、簡単に騙されたり、とちょっと無理筋もありましたが、まあ、総じて、現代でも通用するコメディータッチの「犯罪サスペンス映画」でした。最後に、もちろん、FBIの連中も「分け前」をゲットしたのでしょうね。禁酒法時代ならではのエーガでした。

(児井)貴君発案の映画「スティング」談議。小生も初演を懐かしく思い出しながら、今回も楽しく観ました。皆さんの感想文も興味深く拝読。随所に共感を覚えました。脚本と云い俳優陣の熱演と云い今でも色褪せぬ流石アカデミー賞受賞の傑作ですね。小生一押しの愛好映画の一作です。

(小泉)何回か観たので、敬遠するつもりだったが、gisan の一言で、また観てしまった。何回観ても面白いものは面白い。アカデミー賞に10部門ノミネートされ、作品賞、監督賞等7部門で受賞している。特に歌曲編曲賞受賞のマービン・ハムリッシュが、ラグタイムの父スコット・ジョブリンの曲エンターテイナー等
をピアノ演奏と編曲で蘇らせ、30年代のシカゴの雰囲気を再現させた。監督のジョージ・ロイ・ヒルは、「明日に向って撃て1969」では、同じポール・ニューマンとロバート・レッドフォード主演で、従来の西部劇には見られなかったモダンな感覚で描かれたアウトローの逃避行は、新しさと回顧という本来正反対の感覚を同時に与えたものだが、この映画でも、旧き良き時代を再現させながら、悪事を犯しはするが、実際は極度に善良な人物を描き続けることでモダン感覚とノスタルジーに溢れた人物に魅せられながら、爽快なコンゲーム(信用詐欺)を展開させるのだった。レッドフォードが床屋、服屋を経て田舎者者から一挙に都会人風に変身し、ニューマンに会いに行くと娼館に身を寄せながら、メリーゴーランドの修理屋で泥酔者が翌日には、バリッとした紳士に早変わりするところから始まり、騙し合いの連続。ニューヨークの大ボスあの「007ロシアより愛をこめて」の悪役ロバート・ショウをかもるがための大作戦。悪役ぶりが画面に出ていないこともあり、あまりにもコテンパンのやられ方に、逆に同情してしまった。

(編集子)各位それぞれに楽しまれた様子、何より。 このように洒落のめした大傑作にケチをつける気は毛頭ないのだがどうしてもわからない点がある。正解をお持ちの方に教えていただければ小生もこの作品の称賛グループにいれていただく。

始めの方で、部下の失敗に激怒したショウが、側近の部下にその男を ”セレーノに殺させろ” と命令する。ストーリーはこのシーンはすっかり忘れられたように進行するのだが、後半、フッカーをつけまわすチンピラが裏通りで射殺される。その最後にその男が相手を ”セレーノ!” と呼んだまま絶命するのだが、このシーンでセレーノの姿は画面に出ない。此処で見るほうは最初の話を思い出すのだが、最後近く、フッカーが一夜を共にした娼婦の家から出てくると、先に出ていたはずの女が後ろからやってくる。その方へフッカーが戻りかけると背後から銃声一発、この女の眉間に赤い穴が開き、FBIらしき男が登場して女の右手に握られていた拳銃を示しこの男がショウの言っていたセレーナ、の正体だと明かす。此処で観衆ははじめてセレーナが女だったことを知る、という事になる。

ディミトラ・アーリス

見事な筋書きに文句など言う気は毛頭ないのだが、ここで疑問が二つ。セレーナがピストルを装填するシーンは(腕だけだが)直前に示されるので、殺意を持っていたのは明らかだが、はて、だれを撃つつもりだったのか。フッカーならば前夜にいくらでも機会はあったし、第一彼を助ける手助けをして、しっぽり一夜を過ごしている。もう一人の殺し屋もフッカーをつけねらっていたのだから、そうではないのだろう。では誰か。もう一つ、彼女を撃ったFBIは本物のはずだが、この大芝居に参加しているFBI の連中はホンモノだったのかそうではなかったのか。もしホンモノだったとしたらその中の一人だったことになるのだが、見るほうでは区別のしようもない。どうやら小生だけではないようで、グーグルの彼女についての解説記事にも ”フッカーの逃亡に手を貸す” というのもあるし、”フッカーを殺そうとして撃たれる” という解説もある。また、彼女を射殺した後、声だけだが彼女が恐るべき殺し屋だった、と撃った男が解説するのだが、それがFBIなら彼もフッカーを追い続けていたはずだから、それならなぜその場で、フッカーを逮捕しなかったのか。

稀代の傑作の余韻を惑わすようで申し訳ないが、ミステリの合間にしか生活空間がないコロナごもりのせいとご寛容ありたし。 またこの役のアーリス、たしかにどこかで見た覚えがあるのだが、グーグルにのっている出演作品はどれも見た記憶がない。どこまでも小生にはよくわからん女性である。もし、彼女出演の映画なりTVドラマなり、ご存じの方がおられればご教示をいただきたい。