MCIについて―認知症についての正しい理解 (2)  (普通部OB 篠原幸人)

前稿で、一寸堅苦しかったけれど、「認知機能」とか「認知症」とは何かを解説しました。面倒がらず、読んでくれました?

しかし例えば「鼻かぜ」と「入院が必要な肺炎」の間に、「仕事を休むほどの風邪」とか「気管支炎」があるように、「正常な老化による物忘れ」と「治療が難しい認知症」の間にも、認知症とは言いきれないが、可なり物忘れが進行している状態がありえます。

これがMCI (Mild Cognitive Impairment) (軽度認知障害)といわれる状況です。この境目はかなり曖昧であり、専門家(脳神経内科医ないし精神神経科医)でないとなかなか診断がむずかしい、いわゆる境界領域の病気です。MCIの定義はいろいろありますが、一般的には、

① 本人や家族から「物忘れ」の訴えがある。

② 心理機能検査などで、加齢の影響だけでは説明できない記憶障害が客観的にみられる。

③ しかし、日常的な生活能力は自立している(普通に問題なく生活ができる)。

④ 認知症の定義(前稿の「徒然」を参考にしてください)にはまだ当てはまらない。

⑤ 認知機能検査の結果に影響するような身体疾患(難聴、言語障害、パーキンソン病、書字不能など)はない。

の①から⑤の全てを満たすものと言われています。しかし詳しくは専門医に、MRI・脳血流検査・神経心理検査などの結果も加味してしっかり診断してもらう必要があります。

MCIといわれてもガッカリすることはありません。MCIのうち15%ぐらいの方が2年以内に本当の認知症に進行する(逆に言えば85%はあまり進行しないということ)というデータがあります。しかし私が拝見しているMCIの方でも、もう数年たったのに、むしろ良くなって元気に過ごしている方もおられます。念のためにお薬を服用している方のなかにも元気でお過ごしの方は沢山おられます。発見が手遅れの場合は問題外ですが。

 大事なことは、一人でウジウジ心配せず、一度家族と一緒に(これが大切です。一人で行くと良いことだけ覚えていたり、逆に心配だけしたりするからです)専門医に相談に行くことです。検査には痛いものや、危険なものは何もありません。気の利いた病院なら1日か最大2日で全て調べてくれる筈です。認知機能の障害は誰にでも年齢と共に起こるのです。恥ずかしいことではありません、頭が一寸痛いことと同じと考えてください。

 ここからが重要です。大切なのは、MCIにならないあるいはMCIを進行させないことなので、それを説明します。

① まず、高血圧や糖尿病がある人はしっかり治療してください。これらの生活習慣病は、認知機能の増悪因子です。また血圧の乱高下も危険因子。だから以前の「徒然」で毎日、血圧を測る習慣をつけろと言ったでしょう。

② 心臓病(特に心房細動)、肝臓病、腎臓病、甲状腺機能低下などは認知機能に影響します。これらの持病を持つ人は、今、以上に悪くならないように主治医と二人三脚で。

③ お酒の飲みすぎ、タバコの吸い過ぎは当たり前だけれど増悪因子。目安は、酒は肝機能が悪くならない程度、タバコを吸いたいなら無人島にでもどーぞ。ヘビースモーカーは無症状のコロナ患者と同じで、本人の自覚はないが他人には大変迷惑。耳が痛い人、いるかなぁー。

④ 睡眠薬や精神安定剤の連用は無理に頭の機能を押さえつけ、服用しすぎは脳機能に障害を与えます。最近は私たちの身体の中のある睡眠誘発物質が睡眠薬として市販されはじめました。睡眠薬がないと眠れないと思っている人、主治医にすぐ相談してください。

⑤ 夜更かしも勧められません。もっとも、私も毎晩12時過ぎまで起きているけど。できれば10-11時には寝床に入って、読書でもすれば? 寝床で横になっているだけでもいいよ。夜中に何回かトイレで起きても、すぐまた寝られるなら睡眠としては問題なし。

⑥ 転ぶな! 年をとってからの、特に頭の外傷は認知機能低下に直結。

予防法としては、

① 今からでも、自分独自の「生きがい」を探すこと。散歩でも、老いらくの恋でも、嫁さんや会社の新人いびりでも、カラオケでも、なんでもOK。今からでは一寸遅いかな?

② 配偶者やいわゆるパートナーがいる人は、独身者より長生きで認知症にもなりにくいとのデータがあります。熟年離婚を考えている方、ここは我慢のしどころですね。今、独身なら頑張れ。何を?

③ 運動;強く勧めますね。特におすすめは、テニス・ゴルフ・卓球・野球など相手やパートナーを必要とするスポーツ。英国からそれらのスポーツを好む人はしない人に比べて長生きとの報告があります。もっともこれも今からでは遅いかな?

ここまでの話は、医師会や市民講座で私がする話の一部です。

大切なのは、認知症に限らず、気になることがあったら、手遅れにならないうちに、専門家に相談すること。 60歳過ぎたら、自分は大丈夫と自信があっても、一度は頭のMRIを撮るのも良いかもね。健康保険でカバー出来るよ。今回は少し長文になってごめんなさい。