乱読報告ファイル (3) マクシミリアン・エレールの冒険 (普通OB 菅原勲)

 

フランスの作家、アンリ・コーヴァン(Henry Cauvain)の小説、「マクシミリアン・エレールの冒険」(Maximilien Heller)を読んだ(発行:21年5月27日、論創社。翻訳:清水 健)。大変、面白かった。

松村 嘉雄が「怪盗対名探偵 フランス・ミステリーの歴史」(晶文社。1985年)を著しているが(小生、未読)、正にその題名にぴったりの怪盗対名探偵のお話しだ。何しろ1871年の出版だから、今から150年も前のこと。本格探偵小説とは凡そ縁がなく、つまるところ、犯人捜しではなく、読み始めて、直ぐに犯人は察しが付く。この怪盗を名探偵がとっちめる。虎穴に入らずんば虎児を得ず、と名探偵のハチャメチャな冒険が始まる。従って、四の五の理屈を言っていれば、頁は一向に進まない。話しの流れにただ身を任せるだけだ。しかも、最後は、久し振りにほのぼのとした気持ちになった。

小生の読書の原型は、今はもう忘れられてしまったが、「怪傑黒頭巾」で有名な高垣 眸だ。

題名も内容も全て忘れてしまったが、血沸き肉躍る話しを次から次に読んで行ったことだけは覚えている。それを思い出させた。従って、理屈をこねる人にとっては、実にバカバカしい話しに過ぎない。

ところが、この本が、ある特定の仲間内で話題になっているらしい。一言で言えば、A.コナン・ドイルのホームズ、ワトソンの原型がここにあり、と(ホームズが初めて登場する「緋色の研究」の発行は1887年)。しかし、小生、この本を読んでいて一瞬たりともホームズを思い出したことはない。牽強付会そのものだ。仮に、人物設定(医者と私立探偵)が同じだったとしても、その中身はまるで違う。その証拠に、ホームズは未だに読み継がれているが、エレールは知る人ぞ知るだけの存在になってしまっている。大体、英国人はフランス人をフロッグ(Frog Eater)と言って軽蔑している。そんなコナン・ドイルが、口が裂けてもフランスから元ネタを頂戴したとは言えないだろう。逆に、フランスの作家、モーリス・ルブランはそのルパン(正しくは、リュパンらしい)もので、エルロック・ショルメことシャーロック・ホームズを散々虚仮にしているから、お互い、おあいこと言えないこともない。

と書いて来て、はたと気が付いた。小生、依然として、怪盗ものに留年し続け、卒業していないと言うことに。そうであれば、これからも「失われた怪盗を求めて」彷徨い続けることになる。

(編集子)全く同じ時代を生きたものから付け加える。高垣眸をいうなら ジャガーの眼 を忘れちゃ困るな。彼の海外歴がどれだけあったのか知らないが、時おり挟まれる字句がカタカナ書きの英語だったり、少年の眼にはすげえ、なんて写ったもんだがね。それと、山中峰太郎。敵中横断三百里という実録小説は当時多感の中学生だった亡兄に勧められて読んで興奮したもんだ。それとスーパーヒーロー本郷義昭! 日東の剣侠児 アジアの曙 なんてあったよね。それと南洋一郎、吠える密林 なんてぞくぞくしたもんだ。しかし考えてみるとあれが全部漫画だったらどうだっただろうか?目に焼き付くかもしれないが老年になってしみじみ再読したい、という気にはならないだろうな。