エーガ愛好会(50) 続・夕陽のガンマン-マカロニウエスタンの系譜  (34 小泉幾多郎)

マカロニウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネが クリント・イーストウッドを主演にした所謂ドル箱三部作の最後の作品。「荒野の用心棒1964」が互いに相
争う二組の悪党どもの対立をイーストウッド演じる主人公が、けしかけながらも双方を壊滅状態に追い込む様を描き、「夕陽のガンマン1965」は二人の賞金稼ぎが、時に相争い、時に協力しながら、多額の懸賞金の付いた悪党どもとその親玉を追い詰めていく様子を描いてきた。

この続夕陽のガンマン」は、善玉クリント・イーストウッド、悪玉リー・ヴァン・クリーフ、卑劣漢イーライ・ウオラックが三者三様、互いの持ち味と個性を競い合い、隠された金貨を強奪せんと追いつ追われつを繰り返しながら、三つ巴の決死の争奪戦を繰り広げる。冒頭の三人の紹介シーンから、夫々の決闘シーンにストップモーションに被せて標語が文字に映し出されるかと思えば、銃と顔の超クローズアップや超ロングショットを繰り返す映像に、コヨーテの遠吠えを模したと言われるエンニオ・モリコーネの強烈な主題曲が心地よく鳴り響く。

物語りは、賞金稼ぎイーストウッドが賞金付きお尋ね者ウオラックとコンビを組み、賞金を受け取った上に絞首刑前に救い出し、更に賞金を稼いだりしながら、最後クリーフを含めた三人の決闘で決着するのだが、イーストウッドが事前に、ウオラックの拳銃の弾を抜くといったことで、クリーフをやつけるという善玉らしからぬ方策をとる等、善玉、悪玉、卑劣漢といえども、人間には様々な面があり、一概に決められないオチを付けて終わる。前二作での好評で自信を得た監督は、三つ巴の戦いを物語の根幹に据えながらも、巨匠を気取った大作路線を意識し過ぎたのか、西部劇では、戦争映画に堕さぬよう、戦争後として語られる南北戦争を登場させ、圧倒的な物量による戦闘シーンをスぺクタル風に再現するが、それを含め、全般的に冗長になり過ぎた感があることも否定できない。

イーストウッドは、この監督のドル箱3部作以降は、ハリウッドへ凱旋したが、「荒野の用心棒」では、無精ひげに葉巻とメキシコ風のマントで主役を全うしたものの、「夕陽のガンマン」では黒装束の凄腕ガンマンのクリーフに、「続夕陽のガンマン」では圧倒的なコメディタッチの存在感たるウオーラックに、主役の座から狂言回し的存在になったこともあり、巨匠を気取った大作路線を進むレーネと袂を分かったとも言われている。確かにその後ドン・シーゲル監督という、より簡潔で、無駄のない引き締まった演出法に傾斜している。しかし両者に大きく影響されたことは間違いない事実には違いない。その後、監督業も手掛けるようになり、1992年アカデミー作品賞、監督賞を受賞した「許されざる者」の巻末に「セルジオ・レオーネとドン・シーゲルにこの映画を捧ぐ」の字幕を出して敬意を表している。

(33 小川)
明快な解説で色々と参考になりました。
小生以前にもお話ししたように仕事の関係で60年代から壮年期にかけて余りエーガも山も楽しむことが出来なかっただけに、いつも皆さんの名解説のお蔭で大変楽しむことが出来て助かっております。

今回の三部作も最初から全部見ないと善玉・悪玉・卑劣漢の意味が分からなかったこと(西部劇のなかで南北戦争の戦場が出てきたのには驚きましたが)、イーストウッドがレオーネから離れていった背景等もお蔭で理解できました。ところで初歩的な質問ですが、西部劇がイタリアに渡りマカロニウエスタンとして登場してきた背景について教えて下さい。

「セルジオ・レオーネとドン・シーゲルにこの映画を捧ぐ」の字幕を出して敬意を表する1992年アカデミー作品賞、監督賞を受賞した「許されざる者」が愈々今週金曜日です。楽しみにしています。

(小泉) マカロニウエスタン登場の経緯ですが、そもそもの要因は、当時アメリカハリウッドスぺクタル映画全盛の巨大費用節約のため、高騰のアメリカか
ら安い人件費のイタリア、スペインにロケ地を求めていたプロダクションの倒産で、一挙に数百人のアメリカ人スタッフが現地で失業、そのうち帰国できない彼らが思案にくれているとき、そのロケ地が、アメリカ西南部やニュー・メキシコの地形に似ていることから、西部劇の発想が生まれ、イタリア映画界が協力し、スペインでロケ、イタリアで仕上げのマカロニウエスタンが始まり、「荒野の用心棒」で流行の渦中に入ったとのことです。

(小田)マカロニウエスタンは最近観ていないのですが、撮られるようになった理由、アメリカ等では、スパゲティ ウエスタンと言われていること等、楽しく読ませて頂きました。
私とヤッコが幹事をした50年近く昔?のBBQハイキングに、これまた違う慶応卒の同じ職場の方が、クリント イーストウッドと同じポンチョ姿でをきたこと、そしてこの方がビビアン リーをリリアン ビーと言い間違えたのも楽しい思い出です。

(菅原)小泉 先輩、悪ノリして申し訳ありませんが、米ではスパゲッティ、日本ではマカロニ、と聞いていますが、イタリアではどっちなんでしょうか。まさかペンネなんてことは無いでしょうが。

(ウイキペディア)マカロニ・ウエスタンとは、1960年代前半からイタリアの映画製作者が主にスペインの荒野で撮影した西部劇の総称です。ただし、これは日本だけでの呼び方で、イギリスやアメリカではスパゲッティ・ウエスタン、あるいはヨーロッパ製ウエスタン、イタリア本国では単純に「ウエスタン・アル・イタリアーナ」(=イタリア製西部劇)などと呼ばれています。