今回のパンデミック(コロナ禍)で社会格差は解消するか?  (HPOB 菅井康二)

ご存知かもしれませんがスタンフォード大学のウォルター・シャイデル教授は(1993年ウィーン大学古代史Ph.D)その著書 The Great Leveler: Violence and the History of Inequality from the Stone Age to the Twenty-First Century(邦題:暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病、平等は破壊の後にやってくる)で歴史を省みると平和な時代に拡大した社会的な格差(不平等)は邦題にあるようなカタストロフィーによってリセットされるという説を唱えています。

シャイデル教授は大東亜戦争(私は「右」ではないと自認していますが連合国側の「太平洋戦争」という呼称には違和感があるので)敗戦によって我が国が経験した大きなリセットが戦争による格差解消の一例として取り上げているのですが、これは富が富裕層から低所得者層に移転したものではなく、富裕層が抱えていた国富が消失したことが原因といえます。要するに国民がほぼ等しく貧乏になったという格差解消だと理解しています。

現在進行中のコロナ禍によってこの現象(格差の是正)が起こるかどうか?。先にご紹介した「コロナ禍でパラダイム・シフトは起きるか?」という識者達によるディスカッションによれば14世紀に起こったヨーロッパでのペスト禍や大航海時代に新大陸にスペインによって持ち込まれた感染症などのように社会的に巨大なインパクトを与えるほどの極端な人口減が伴わない限りそれは起こらないという見解でした。

事実100年前に我が国も経験した「スペイン・インフルエンザ」は全世界で5,000万人の死者(日本本土で45万人(人口の0.8%)外地(朝鮮、台湾)を含めると74万人、当時の日本統治下では人口の0.96%の死者に相当)がでましたが、一昨年に亡くなられた歴史人口学の泰斗であった速水融名誉教授の力作「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争 にも関東大震災の五倍近い人的被害を出しながら近代史のどの本にも出てこないと書かれています。第一次世界大戦という大事件の影に隠れてしまったという嫌いはありますが、このパンデミック終息後には世界は何も変わらず元に復したということです。

話はマクロからいきなりミクロの世界になりますが、今月初めに塾高時代からの同級生2人といつも美味いものを出してくれる銀座のカウンターとテーブル1つという小さな和食屋(昔流にいえば小料理屋)でささやかな「忘年会」もどきをやりました。こんなご時世でなければ予約の客で一杯なはずなのに結局最後まで我々以外には訪れる客はありませんでした。女将は嘗ては新橋でお座敷に出ていた美形で常連の顧客には所謂富裕層(金持ち)が多いようです。

銀座でも飲食関係の店は厳しい状況で営業を諦めて閉店した店が結構あるそうです。ただ、女将の話では「お金持ちにはブランド品などの高級品はよく売れている」とのこと。特に何年も経っても価値の変わらなモノ(例えば都心のマンションが買えるような超高級腕時計など)が売れているそうです。「これだけ世界中にお金がばら撒かれているので数年後に起こるかもしれないインフレ対策では?」というのが女将の見立てでした。

これが全てではありませんし、現在のコロナ禍がどのように進行しどのように終息(収束)するかは分からないのですが、ワクチンが効果を発揮し今後このレヴェルで推移するようであるならば格差は縮小するよりも寧ろ逆に拡大するような気がしています