エーガ愛好会 (22) The Big Country

予想もしなかっためぐりあわせから米国企業で働くことになった僕は、シリコンバレーには相当回数足を運んだが、東部や中部を訪れる機会は少なかった。その少ない旅の途上、ジェット機の上からその国土の果てしないうねりを見て、”でっけえ国だなあ” という印象はもちろん持っていたが、実感としてそれをあらためて実感させたのちょっとしたドライブだった。

コロラド・スプリングスは米国空軍士官学校の所在地として、陸軍士官学校のウエストポイント、海軍兵学校のアナポリスとともに知られているし、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)の所在地でもある、いわば軍都、とでもいうべき街で、幾度か訪れることがあった。1970年2月の訪問のとき、デンバーから通常のルートを避け、地図を頼りに回り道をしてみたことがある。つたない詩もどきを書き留めている とりこにい にその時の感情が書いてある。

 

 アクセルをぐうんと踏んで フォードLTDは小さな峠を越えた

 視野の果てまで きつね色のコロラド溶岩台地の遠く

 早春の平野の第三象限を限るロッキーの稜線があった

 インターステートハイウエイが越えるこの峠

 百年の昔 人は馬で越えた      

 この峠に立って 幾人の旅人が      

 かぐわしい夏の夕風 暮れていくロッキーに問いかけたか

 幾人の騎兵隊兵士が 幾人のファー・トレイダーが 吹きすさぶ雪に吠えたか

 ・・・・おれはなぜ、ここにいるのか、と。

 彼らが帰り着いた土 この峠に立って

 ひとりの異邦人はつぶやくのだ

 この広い天と この ただ果てしなくひろい地のはざまに

・・・・ おれは いま 生きている! と。

 

 

思わせぶりな前説が長くなった。ウイリアム・ワイラー、大いなる西部。

(写真提供 安田耕太郎君)

(小泉) 監督ウイリアム・ワイラーで「西部の男1940」以来18年ぶりの西部劇、主演グレゴリー・ペックとは「ローマの休日1953」以来5年ぶり。最近BSPで放映されたペックの西部劇「続ガンヒルの決闘」「拳銃王」とは異なり、その人柄が醸し出されるような東部の紳士で、インテリ風でありながらも船乗りから船長に登り詰めた強靭な肉体も持ち合わせる主人公を颯爽と演じている。

開巻から東部と西部の対立の様相を見せつける。婚約者のキャロル・ベイカーとその父チャールズ・ビックフォード経営の牧場へ向かう途次、対立するチャック・コナーズの仲間に、手荒い西部的歓迎を受ける。父ビックフォードは、そのことを娘から聞き、やられた仕返しに、コナーズの父パール・アイヴィスの牧場を襲う… 両牧場対立の根源でもある水源地を所有するジーン・シモンズに会ったりしているうちに、ファザコンであまりにも古い西部的な女性ベイカーとの気持がズレて行くことから、シモンズへ心が移っていく。最後は、ビックフォード家とアイヴィス家との峡谷での戦いで幕を閉じることになる。脇役とは言え、アイヴィスとビックフォード二人の爺様の演技が光る。アイヴィスは歌手出身ながら、貫禄ある振舞の中に進歩的考え方の持ち主でもあり、筋の通った男ぶりから、卑劣な息子を射殺し抱き締めざるを得ない父親を演じ、アカデミー助演賞に輝いた。

 駅馬車の遠景で始まった大いなる西部、構図が古い西部から新しい西部へ移り変わり、広大な平原を見渡す展望が、すべての場面で、ロングショットが活用され、大いなる西部の景観が浮かび上がってくるのだった。広大な大自然に、ぴったりした優雅でダイナミックなジェローム・モロスの音楽も懐かしく聴かれた。各場面夫々に、登場人物夫々に、適切に合致した音楽、昔はサウンドトラックのレコードで、画面を振り返りながら、音だけで聴いたものだった。終演は重なった二人の古き西部の鳥瞰のロングショットから谷間へ去るペックとシモンズの若者の後ろ姿に大西部の景観が浮かび上がる。新しい西部の幕開けか。

(菅原)映画館で見ているから、これが、二度目です。それにしても、覚えていないもんですね。ペックは、終始、あまりにも恰好良すぎました。ヘストンと殴り合いをやり互角に見えましたが、最後に、ヘストンの「別れの挨拶が長すぎる」でヘストンの判定勝ち。チャールトン・ヘストンは、眼光鋭く、苦み走った良い男。全米ライフル協会の会長だった時は、その眼光の鋭さで、銃規制派もすくみ上ったんじゃないかな。

小生のお気に入りのC.コナーズ、ちょっとどころが、だいぶ可哀そう。せめて一度ぐらい見せ場を作ってから、B.アイヴスに殺されても良かったんじゃないか。それだけの値打ちもなかったか!ジーン・シモンズは、イギリス人で、東部の女であり、西部の女ではありませんが、キャロル・ベイカーは、正にピッタンコ。1931年生まれで存命中だから89歳か。どんなお婆さんになっているのか。

C.ビックフォードは、あれだけ豪華なお屋敷があり、しかも、ごまんといる牛を飼っているところを見ると、アイヴスが言っていたように、相当な悪さをして来て、ここまで伸し上がって来ている筈です。ですから、最後は、勧善懲悪で、ビックフォードがアイヴスに殺されると思いきや、相撃ちでチョン。余りにも長いので、生理現象がおきましたが、最後まで見たので面白かった。

(安田) 「アラビアのロレンス」 の冒頭に近い場面で、ピーター・オトゥ―ルのロレンスがエジプトカイロのイギリス司令部からアラビアの砂漠の地に赴任して迎えた最初の日の朝、荘重な輝ける 日の出 が悠久な砂漠を黄金色に染めて、その後の波乱含みの映画の流れを予感させるかのような見事なシーンで強烈に印象に残っています。似通ったシーンが 「大いになる西部」 にもありました。グレゴリー・ペックが東部からテキサスの地に着いて、宿泊する家のベランダから眺める光景は、地平線の彼方まで広がる荒野の雄大な景色。正に The Big Country そのもので、映画のスケール感を期待させるに充分な冒頭シーンでした。

 イギリス女優 ジーン・シモンズ 。同じイギリス人の ヴィヴィアン・リー、エリザベス・テーラー にやや似ていて、彼女の黒髪 (或いは濃いブルーネットだったか ) は, 金髪のキャロル・ベイカーとの容姿の対比のみならず、役柄の人物像対比をもより際立たせていて映画の筋に沿っていてとても良かった。最後には、グレゴリー・ペックは許嫁の未熟でわがままなキャロル・ベイカーから離れてシモンズへと気持ちが移って、二人で未来を共に歩むことを示唆して映画は終わります。ペックとシモンズの間では直接的なラブ・シーンは一切なく、それでも気持ちを通わせお互いが敬意と愛情を抱いていることを分からせる演出は、流石ウイリアム・ワイラーです。 

グレゴリー・ペック が荒馬を乗りこなすのに悪戦苦闘するシーンはとても印象的。東部の都会男が西部男になっていく忍耐と勇気の決意が描かれていて、映画のテーマと彼の人となりを側面から見事に描いたシーンだと思います。それにしても、あの荒馬も見事に演技(?)したものです。それだけプロの調教師によって手名付けられたのでしょう。あの場面以外、ペックの乗り物用の馬としては登場しませんでしたから、あの調教のシーンだけの為に準備されたのだと思います。これとて見事な映画作りの一端を垣間見る思いがします。

また、ペックが船乗りの経験を活かして荒野を探訪するのに磁石と地図を駆使して、荒野を迷わず歩くことが信じられない陸の荒くれ男達を驚かすシーンなども斬新で、それまでの西部劇にはなかった面白い発想を網羅した演出になっていました。さらに、腕力に物を言わせて争いの決着を血を見ることでつける旧来のやり方に代わり、近代的な和と平等な仲裁方法を導入しようとするなど従来の西部劇にはない一歩前進したストーリー展開と演出になっていました。190cmの大男 二人、ペックとチャールトン・ヘストンの決闘場面は、語り尽くされているとは思いますがやはり見応えがありました。 

グレゴリー・ペック は ゲーリー・クーパー、ジェ-ムス・ステュアート などと並びアメリカの良心を代表する俳優だと評されていますが「小鹿物語」、「ローマの休日」、「アラバマ物語」 などでもそうでしたが、この映画でも彼の持ち味と特徴が如何なく発揮される役柄を演じています。ラッキーな俳優だと思います。特筆すべきは、アカデミー助演男優賞獲得 は当然だと思わしめた、 争う両陣営の片方の親分、相撲取りのような体躯の バール・アイヴス の迫真の演技でした。ウィキで調べると元々はアメリカで数多くのヒット曲をもつ歌手とのこと。彼が息子役の チャック・コナーズ   (テレビ「ライフルマン」で馴染み) に対しても公正さを貫き、背いた息子を自らの手にかけて殺し、腕の中で息絶えていく息子への父性愛を示す場面での彼の演技は、この映画の白眉のひとつだと思います 最後に、何回聴いても映画のスケール感に相応しい雄大なーマ音楽は素晴らしい。

(保屋野)大作、「大いなる西部」は、劇場で1回、テレビで5回ぐらい観た、ジャイさん同様私のNo1西部劇です。感想等はプロの皆さんのおっしゃる通りで、アマの私が付け加えることはありません。

ちなみに、西部劇に「大作」は少ないと思いますが、昔見た「西部開拓史」ジャイアンツ」も面白かった記憶があります。ただ、誰かが云っていた、少々「グレゴリー・ペックに都合が良すぎる」という安易な点はありましたが、気になるほどではありません。

①   決闘シーンで弾がそれたこと。②   水利権付牧場が簡単に手に入り、しかも買う金があったこと。③   対立する2人が相打ちで死んでしまうこと。④   キャロルベーカーより魅力的な?ジーン・シモンズに上手く乗り代えられたこと。

大西部の雄大な風景、特に水争いの河の風景が圧巻。テーマ曲も絶品。ただ最後に、キャロル・ベーカーとチャック・コナーズがちょっと可哀相。

(編集子)エーガ館、テレビ、DVDなどあわせてたぶん5度目くらいだと思いますが、結局最後までまたみてしまいました。やはり小生の西部劇ベストワン、です。この作品の背景になっている牧場主の間の水の取り合いはよくテーマになりますね。ウエインものでいえば、“チザム” もそうだったし、“”エルドラド もそうでした。

今回改めて思ったのは、”間(ま)” の取り方、せりふのないシークエンスとロングショットが効果的だなあということでした。菅原兄も触れているペックとヘストンの殴り合いですが、ロングショットにひいて、殴り合いの音だけが聞こえるシーンなんか、まさに Big Country の中でわめいている人間の矮小さを表現しているのだと思います。之がこの映画のテーマなんだと改めて感じました。
バール・アイヴスのレコード(!)があったはずですがどっかへ行ってしまいました。正統的な ”ウエスタン” の歌い手だったという記憶があります。またか、と保屋野君なんかに怒られそうですけど、セーブゲキ、万歳(ついでに ジャイアンツ をセーブゲキというのはちょっとジェームズ・ディーンにそれこそ可哀そうかもしれませんね)。