米国の対中国政策について (3)

(つづき)

政策の実行   Implementation

大統領のNSSに示されたとおり、本報告があきらかにした政治、経済、安全保障政策はアメリカ国民と郷土を守り、米国の繁栄を拡大し、国の強さを通じて世界平和を維持して海外における自由と開かれたビジョンを推進するものである。本政権は当初3年間、ここに示した中国に関連する政策の実行に関して着実な成果を上げることができた。

  • アメリカ国民、領土、アメリカ的生活様式の保護 Protect the American People, the Homeland,and the American Way of Life

米国司法省の中国問題対策(訳注 China Initiative)及びFBIは、企業秘密窃取、ハッキング、産業スパイ行為を主な対象とした調査を行い、国家インフラストラクチュアやサプライチェーンへの不正な外国人投資や米国政府の方針を妨害するような動きを除去するために引き続き努力を続けている。例えば、司法省では中国国有のメディア会社CGTNアメリカに対し、外国企業登録法(訳注 Foreign Agents Registration Act, FARA)の規定に基づいた登録をするよう指導した。同法に依れば登録者には業務の内容を連邦当局に報告し、発行物には適切な識別をする義務があり、CGTNアメリカもこれを了承したという。

中国共産党による米国国内のプロパガンダに対して、本政権では悪意ある行動を明示し、あやまった情報は訂正して透明性を保つように指導している。またホワイトハウス、国務省及び司法省など米国当局者は米国民に対して中国共産党が我が国の自由かつオープンな社会制度を悪用して、米国の国益や価値体系を傷つけようとしていることを理解するように教育してきているが、一方、互恵主義の観点から、中国外交官に対して連邦および州政府要員や学術団体に事前に届け出を要請することにしている。

また政府では、北京が米国の学術団体において各種委員会などの運営に携わるような行動(訳注 co-optation)を従来の産業スパイや誘導行為などの域を超えて中国市民または関係者に強制している事実に注意するようよびかけるとともにそのような行動を阻止するための努力をしている。また大学当局と連携して、米国キャンパスにおける中国人学生の権利を保護しながら、中国共産党のプロパガンダや偽情報の拡散に対応する情報を提供し、米国学術環境における倫理綱領への理解を求めてもいることを挙げておこう。

現時点で中国人学生は全米の外国人学生中最大の勢力になっているが、これら学生や研究者の貢献はまた顕著なものがある。2019年現在、その数は史上最大のものとなり、一方では中国からの学生ビザ取得の拒否件数は着実に減少してきている。米国は開かれた学術的交歓を強く支持しており、外国人学生による適法な範囲における研究活動の成果は高く評価する立場を堅持しているが、一方では少数ではあるが身分を偽ったり、悪意を持って入国しようとする中国人学生を事前に探知するためのプロセスの改善を急いでいる。

米国の研究開発関係者の中で、国立健康研究所(訳注 National Institute of Health)やエネルギー省では、活動の透明性を維持するとともに利益相反行為を防止する目的で規定されている行動要領や報告形式を明確化する規則や手続きを制定しているし、国立科学技術会議(訳注 National Science and Technology Council)の合同委員会は連邦予算で行われる開発に関する標準や推奨する行動基準を定めた。また国防省は開発依頼先が中国の人材募集プログラムと関係することを禁じているが他方、国外からの研究者を増やしていくことも行っている。

さらに米国内の情報システムに対する海外から不正なアクセスを防止するため、”情報通信システムおよびサプライチェーンの保護” および ”テレコミュニケーションシステム分野への外国からの参入審査のための委員会の設置“ について大統領令が発令された。これら法令の実施によって、特定の企業が外国の競合相手からの照会に答えたり関係を持って米国政府、私企業、個人から、私的あるいは機密の情報を提供することを未然にふせぐことができる。また、世界規模でわれわれの情報、すなわち機密の軍事及び関連情報などを保護するため、政府は同盟諸国やパートナーあるいは多面的な会議体などと協力して安全かつ強固な、地球規模の情報経済の根幹をなす、信頼度の高い情報基盤の確立を図っているし、中国に責任ある国家としての行動をとらせるため、同盟国、パートナー国と協力して、不正なサイバー攻撃の確定、あるいはまたは回避する行動をとっていることを指摘しておく。

さらに外国投資リスク検証法案(訳注 Foreign Investment Risk Review ModernizationAct)を準備し、米国内外国投資委員会 (訳注 Committee on Foreign Investment in theUnited States, CFIUS) の権限を強化、従来担当範囲に含まれていなかった投資制度の悪用による国家安全保障への悪影響に対処する。この範囲に該当するものとして、米国内の革新的技術に小数株主として参加し、中国軍の近代化を図る、などということがあげられる。

米国政府は輸出管理規定を改定したがその重点は北京指導のMCF(前記 軍民混淆体制)を通じて超音速技術,量子コンピュータ、人工知能、バイオテクノロジー、そのほか開発途上にある基礎技術に関する情報の逸脱を防ぐとともに、同盟諸国やパートナー国にも同様の外国投資のスクリーニングや多面的な制度会議体などを通じた輸出規制法制の整備をよびかけている。

米国の消費者を中国製のにせものや低品質製品から守るために具体的な方策も実施されつつある。2017年から2018年にかけて国土安全保障省が摘発した中国製の偽造品は5万9千件、金額にして21億ドルに上る。これはほかの国からの輸入されたものの5倍に上っている。衣料、靴、ハンドバッグや時計など有名ブランドの偽造品だけではなく、米国税関や国境警備隊は3度にわたって5万3千丁の中国製銃器および電子部品の不正輸入を摘発した。これらが米国の企業、個人の安全を脅かし、プライバシーを侵害しかねないことはあきらかである。また、関係各機関は高濃度の汚染物質、バクテリアや動物の排泄物などを含むものも発見されている中国偽造の薬品や化粧品について、標準を定めて取り締まりを行っている。

米国は中国側の該当機関と協力して、違法である中国製フェンタニール(訳注 鎮痛剤の一種)の米国向け輸出を撲滅する努力をしてきた。2018年12月、大統領は中国の責任者から、中国においてあらゆる種類のフェンタニールを管理するとの通報を得た。2019年に中国側の法的規制が実施され、以来両国の法的執行機関は協力して中国の麻薬製造業者や密輸業者を排除するための法規制を進めてきており、あわせて、中国の郵政機関とともに小型郵便物の監視についても同様な努力を継続しているのである。

  • アメリカの繁栄の維持   Promote American Prosperity

中国の不正かつ目に余る貿易及び産業秩序に対する行動が明らかにされたことに基づき、政府は米国の企業、労働者、農業従事者の保護と、米国製造業の空洞化を引き起こした北京の政策に対応する毅然とした対応を決定し、米国・中国間の経済的関係のバランスを取り戻すことを確約する。われわれは政府の全力を集中し、公正な貿易を支援して米国の競争力を高めることでべく国の輸出を促進する。また、米国の貿易及び投資に対する不正な障壁を取り除く。2003年以降続けてきた、公式な、ハイレベルの対話を通じて経済上の公約を求めてきた北京の説得が失敗に終わった結果、我が国は中国の市場規範を無視し、製品に関税の形式を利用してでコストを上乗せする方法で技術や知的財産の簒奪を図ってきた中国に正面から対抗する。ここにいう関税は米中両国が公正な第二段階について合意するまで存続させる。

我が国が中国に対して市場慣行を破壊する域に達するまでの政府の補助金政策や過剰生産を削減、あるいは排除すべく繰り返し要請してきたにもかかわらず、改善がされないため、米国は自国にとって戦略的に重要な鉄鋼とアルミニュウム産業の保護を目的として輸入税を課すことで対応してきている。これら中国側の不公正な貿易慣行はWTOにおける調停の対象事項であり、複数のケースについて係争し、勝訴してきた。結果として、商務省は中国の広範囲にわたるダンピングや補助金行為について前政権を上回る規模で米国アンチダンピング法ならびに相殺関税法の適用を認める断をくだした。

2020年1月、米国と中国は経済及び貿易に関する第一次の協約に署名した。これは中国側の経済貿易慣行の構造的改革と関連する変更を促し、長期にわたって懸案となってきた米国側の関心事項に対処するものである。本協約によって、外国企業が中国において事業を行う前提として技術移転を強制すること、すべての重要領域において知的財産の保護を強化しそれを遂行すること、中国内での米国の農業および財政関連事業の展開に関する障壁を除去して市場を開放すること、及び長期にわたって中国が展開してきた通貨の不正な規制の除去、などが要求されているほか、実効ある早期の実施を監視確約するための強力なメカニズムを設置した。このような構造的貿易障壁への対処とその公約の全面的実現のため、この第一段階にあっては米国から中国への輸出の増加を拡大させる。中国は米国からの商品およびサービスの輸入金額を四つの領域、すなわち工業製品、農産品、エネルギーおよびサービスの分野において、今後2年間2千億ドル以上増加させることとしていて、よりバランスの取れた交易関係の推進と、米国の労働者に対して公平な機会を創出するという意味で画期的な試みと言える。

国内対応の面では、本政権は米国経済の強化と将来の産業分野、たとえば5G技術などの強化を税制度改革と堅固なディレギュレーションによって実行していく。そのいい例が ”人工知能分野における米国リーダーシップ確立“ に関しての大統領令は、米国政府の先導によって投資と協力を推進し、米国がイノベーションと経済成長のモデルであり続けるための好例であろう。

また、同じ考えを持つ諸国との協力を通じて米国は国家主権、自由市場、継続的成長を基盤とsる経済ビジョンを推進していく。EUおよび日本との間では、国家保有企業、産業補助金、技術移転の強制、などについて、三者間の堅固なプロセスを構築して必要な規範を制定しつつあり、あわせて、差別的な産業標準が世界標準となることを防止するため、各国との協議を継続する。世界最大の良質な消費財市場であり、最大規模の外国直接投資対象であり、地球規模での技術的革新の源泉でもある米国は、同盟諸国やパートナーと一致協力して挑戦を共有し平和と繁栄のための実効ある対応を強力に推進する。米国企業との協力という面では、例えば プロスパー・アフリカ計画(訳注 Prosper Africa),中南米におけるアメリカクレーセ (訳注 America Crese)、インド太平洋にあっては 開発成長促進計画(訳注 Enhanching Develpiment)などの安定的な行動の支援などを通じて国内および国外での競争力強化を図っている。