米国デモ騒動の現状  (HPOB 五十嵐恵美)

現在シリコンバレー在住の五十嵐恵美くんにお願いして、現状のリポートを送ってもらった。少し長いが以下に紹介する。1年間小生が住んでいた、のんびりしたレッドウッドシティすら暴動に巻き込まれていると知り、かつてのよきカリフォルニア、を今でも大切に思っているひとりとして暗澹たる思いである。

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Background 

5月26日のメモリアル・デイ(戦没将兵追悼記念日)に米国中西部ミネソタ州ミネアポリス市で黒人の男性、ジョージ フロイド(46歳)は偽造の20ドル札を使った理由で逮捕され、手錠をかけられて、白人の警察官、デレック ショーバン(44歳)の膝の下で約8分間地面に首を抑えられ死亡した.傍観者の携帯のビデオにその全容が撮られ、ソーシャルメディアを通して全米に配布され、ショーバン巡査はその後解雇、金曜5月29日に第三級殺人罪(Third Degree Murder)及び業務上過失致死罪(Second Degree Manslaughter)の容疑で逮捕された.

ジョージ フロイドの死の直後、東海岸から西海岸に渡る全米約150におよぶ都市で「警察官の黒人に対する差別、残虐行為」に抗議し「警察改革」を求める合法で平和的な抗議デモに加え、各地で過激な暴動、略奪がはじまった.ミネアポリス、ニューヨーク、ワシントンDC、ヒューストン、ロスアンゼルス、等を含む都市では収拾がつかず夜間外出禁止令が発令され、National Guards (国家警備隊)が出動したにもかかわらず、ミネアポリスでは暴動の治まる見通しはない.

 

保守的なWall Street Journalの社説

6月1日付のWall Street Journalの社説に、

“The violence that broke out in American cities this weekend goes far beyond justified anger at the killing of George Floyd on Monday. The rioters are looting shops and attacking police with impunity, and they threaten a larger breakdown of public order. Protecting the innocent and restoring order is the first duty of government.”

(今週末にアメリカの都市で発生した暴力は、月曜日のジョージ フロイド殺害に対する怒りを正当化できる限度を遥かに超え、暴徒は店舗を略奪し、刑事免責で警察を攻撃し、公共秩序のより大きな崩壊を脅かしている.罪のない住民、地域の秩序を回復させることが今、政府の第一の義務である.)

ニューヨークでの略奪

 

アトランタでの略奪

 

ミネアポリスでの対立

“The same goes for liberal media and intellectuals, who are in general portraying the riots as an understandable response to social injustice. Most of them live far from the burning neighborhoods as they denounce police. They ignore that there is no chance of addressing social injustice without underlying civil order. The main victims of a summer of chaos in America will be the poor and minority neighborhoods going up in flames.”

(同じことが、一般的に、暴動を社会的不正に対しての理解できる対応と考えている、リベラルなメディアや知識人にも当てはまる.彼らのほとんどは、暴動の起こっている都市のスラムから遠く離れた安全な郊外に住んでいるので、警察を簡単に非難できるのだ.   彼らは、根本的な民事秩序なしには、社会的不正に対処できない、という基本的な現実を完全に無視している.アメリカのこの夏の混乱の主な犠牲者は、貧困層とマイノリティが住んでいる炎上している都市なのだ.)と、偽善的に映るアメリカの知識層をも皮肉っている. 

シリコンバレーの巨人たち

Amazon、Google、Netflix、Uber、Twitterはデモ、暴動の続いている週末明け6月1日に、人種による不平等に抗議し、場合によっては、人種の平等を求めるグループに資金を投入するという声明を発表した.AT&T、IBMも同じようなサポートを表明.

ミネソタの略奪者の射殺を促したと解釈されたトランプ大統領のTwitterへのツイート(”when the looting starts, the shooting starts”)に対して、Facebook CEOのマーク ザッカーバーグは、トランプ大統領との会話の中で,ソーシャルメディアへの投稿について率直に懸念は表明したが「Facebookはユーザーがオンラインで発言するすべてのことが真実であるかどうかを決める仲裁の役割を果たしてはならないと信じている.また、一般的に、民間企業は、特にこれらのプラットフォーム企業は、仲裁の役割を果たすべきではないと信じている」と語ったと述べた.これは(トランプ大統領のツイートの内容の信頼性を判断し公表すべきだと公言している)ライバル会社のTwitterとFacebookを区別するスタンスである.

この背景としては、しばらく前からアメリカ議会の両党(共和党、民主党)をまきこんで議論されている、Facebookをどうするかの問題の新しい展開として、Section 230 of the Communications Decency Act(通信責任制限法第230条)を修正すべきという論調が目立つようになってきたことがある.トランプ大統領が最近大統領令を出した結果、立法されてから24年になる、Section 230 of the Communications Decency Actが改定される可能性はある.

シリコンバレー近隣でのデモンストレーション

黒人、マイノリティの住民が多い、シリコンバレー近隣のサンフランシスコ、オークランド、サンノゼ市ではすでにデモ隊と警察の衝突、車の炎上、店舗破壊、略奪、等が起こっており、サンノゼ、サンフランシスコ、サンタクララ、フリーモント、ウオールナットクリーク、ヘイワード市では無期限で夜間外出禁止令が発令されている.オークランドでの週末の抗議デモには約15000人が参加したと報道され、イーストベイ(サンフランシスコ湾の東湾)のサンリアンドロのカーディーラーは日曜5月31日の夜の略奪で、新車50台がショールーム及び駐車場より盗まれたと報告した.  ショールーム内にある車のキー ボックスをこじ開けて行われた、計画的な犯罪とみられている.  個人の車への破壊行為はベイエリア全体に及び窓ガラスが夜中に割られていたケースは多数報告されている.またサンフランシスコでは銃砲店、合法薬物を扱う店舗も(これらも恐らく)計画的に略奪されたと報告されている.抗議デモ参加7人のうち1人は市外の住民で、バックパックに爆発物、刃物等を入れ所持しており、その多くが計画的に破壊、略奪を目的に参加している常連であると懸念されている.

パロアルト周辺

パロアルト市周辺では日中は比較的平和的な抗議デモが続き、夜間にサンタクララ、サンノゼ、レッドウッドシティー等の市で略奪が発覚している.COVID-19の影響で、失業率、ビジネスの倒産は急増、サンフランシスコの三分の一のレストランは復帰できないと予想されている中、失業中で、時間のあり余った、貧困層のデモ参加者も多いはずだ.


週末の放火、略奪、ターゲット雑貨店、オークランド市
週末、デモ隊と警察官の対立、サンフランシスコ市役所前
「黒人の命も、他の命と同様に大事なのだ」、サンフランシスコ市役所前

イーストパロアルト警察は5月31日、イーストパロアルト市でのデモ隊の激しい抗議の最中に待機、その後デモ隊はパロアルト市にあるザッカーバーグの自宅へ向かう。

デモ隊に備えるアップル ストアー
パロアルト市ダウンタウン、ユニバーシティ アベニュー
バーガーパーク、メンロパーク市(膝をつく姿勢は暴力のない平和的なプロテストを意味する)

今後

今回の抗議デモは、米国で起こった1967年の、警察の残虐行為と人種的不正に対する大都市での抗議デモ隊が、警察と国家警備隊と大衝突した、暴力の「長い暑い夏」とよく比較される.翌夏1968年も同様の抗議行動が続き、今回と同様にその年には極端に二極化し激しく争われた大統領選挙が行われた.現在のアメリカの不安は、若者や少数民族が「人種の不平等」と「政府との関係」の両方に不満を表明し続けた、20世紀に起きた数々の暴動と多くの点で似ているといわれる.

トランプ大統領は、現在まで、社会主義とコロナウイルスに起因する大統領選挙運動の制限について多くツイートし、公言してきた. 6月1日、ホワイトハウスのローズガーデンで演説したトランプ大統領は、抗議者を「凶悪犯」、「犯罪者」、「略奪者」と呼び、「厳しい刑事罰と刑務所での長い刑」を公約した.トランプ大統領の言葉「暴力的な暴徒」(黒人とイミグラント)は共和党の支持者である一部の白人有権者を鼓舞するシンボルとして役立ってきた.キャンペーンが今後、増々人種差別化されると予想されている.


抗議者たちは、6月1日にオレゴン高速道路とパロアルト市ユニバーシティ アベニューの間の車線を遮断して、ハイウェイ101を行進

民主党がこの身近な罠の餌食になり、人種的正義の名の下に暴動を擁護した場合、ジョージ フロイドの殺害をめぐる怒りの抗議デモ隊は、政治化され、何の結果も見ずに終焉する可能性は多大にある.民主党活動家のひとつの希望は非暴力のままで、残虐行為と人種的不正に対する抗議活動を気長に行っていくときに初めて、アメリカの警察改革と人種的不平等に切実に必要な進歩を遂げることができるのではないかと思う.

パロアルト市役所の前で膝をつくプロテスター

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(中司返信)文中にも書きましたが、ユニバーシティアベニューもさることながら、レッドウッドシティも騒動の渦中にあったとのこと、まさに胸が痛みます。デモに参加する人たちには応援したいですが、こういう時必ず起きる略奪行為、それが自分で自分の首を絞めていることを無視してまだ当たり前のように起こす、このあたりがやはり日本との民度の差なんだとつくづく思います。

(五十嵐追記). Giさんは レッドウッドシティに住んでおられたのですね. 昨夜は、外出禁止令が出ていましたが、日中、ダウンダウンで2000人位の”平和的”な集会があったようです.ニュース クリップがありますのでおくります.

(中司追記)上記クリップを見てみた。現場の中継なのでリポートは半分くらいしか理解できなかったのが悔しいが、緊迫した場面の動画は一件に値する)