ポピュリズムとは何か その2  (44 安田耕太郎)

イギリスの高級紙The Guardian)にポピュリズム関連の記事がシリーズで掲載された。ここで同紙は次のように言っている。

Populists tend to frame politics as a battle between the virtuous ‘ordinary ‘ masses and a nefarious or corrupt elite –   and insist that the general will of the people must always triumph.
( ポピュリスト達は政治は有徳な普通の大衆と邪悪な或いは堕落したエリートとの間の戦闘であるととらえ勝ちであり、人民の一般意志が常に勝利せねばならない、と主張する。)  。同紙によればポピュリズム台頭の大きな要因は3つある

第一は近隣諸国から流入する移民・難民の増加である。貧しい地域から肥沃で富んだ地域に移動するのは人間の性であり歴史の事実である。ローマ帝国滅亡の一つの要因として定説になっているのがゲルマン民族大移動である。移動或いは移住は100年から300年の長期間に亘り徐々にしかし持続的に行われた。後進国からの流入者の出世率の高さも人口問題を複雑化 深刻化させた。結果として、異民族の流入により帝国の政治的 経済的 社会的秩序維持が困難になって衰退 滅亡したのである (まず東西帝国に分裂395年、続いて西ローマ帝国滅亡476年。東は1453年オスマントルコによって滅亡)。ヨーロッパでは2015年の難民・移民急増問題がポピュリズム台頭に一層の拍車をかけた。この要因に誘発されたポピュリストは例外なく右派である。富んだ国アメリカを目指し中南米から行進して来て、メキシコ国境で足止めされている集団に対するトランプ大統領の一見冷酷な対応も同じ脈略で語られるべき問題であろう。何せ今世紀半ば以降にはアメリカでは白人を凌駕してヒスパニック系人口が多数を占めると予想されているのだから。ガーディアン紙は、移民・難民問題が現在のポピュリズム増殖の原因の一つと指摘しつつ、ヨーロッパはこの問題を的確に解決且つ制御していかなければ、ローマ帝国とゲルマン民族大移動の結末に似通った事態も中長期的(100年後、200年後)には起こりうる可能性もあると警鐘を鳴らしたのである。

第ニの要因は経済不況と貧富格差拡大の問題である。2008年のリーマンショック金融危機に起因する経済不況はポピュリズム台頭に多大な影響を与え、今日に至るまで、第一の移民・難民問題と深く関わりつつ、政治 社会を不安定 不確実にしている。経済不況によって蒙る悪影響の度合いによってポピュリストは左派と右派に分かれる。不況の影響を深く受けた国ギリシャでは極左SYRIZA党(急進左派連合)が2015年の選挙で36%を得票して、ヨーロッパでは唯一の左派ポピュリスト政権政党となった。ラテン系の南欧(イタリア スペイン ポルトガルなど)では左派ポピュリトが優勢であり、相対的に裕福な中欧・北欧ではポピュリストは右派が大半である。北に行けばより極右となる。ヨーロッパのポピュリストは約6割が極右派、極左派と中道が残りを半分ずつ分け合っている (貼付下図参照)。
第三の要因は、それまでポピュリストでなかった政治家や政党がポピュリストへ変更する 鞍替えケースである。最近の例としては、ハンガリーのFidesz党(ハンガリー市民同盟)とポーランドのLaw and Judtice党(法と正義の党)がこれに当たる。両党とも右翼であり、それぞれの国で国政を司る政権政党になった。空気の流れを読むに鋭敏な風見鶏であったのだろうか(安田コメント)。
第三に更にポピュリズムを産み、増殖させる土壌が今日の社会環境にある。
1.  個人主義的価値感の浸透が国民をして権力に束縛されたくない、解放されていたいと願わせ、独立 自立した立場で政治選択をするようになった。選挙する際の流動性 不確実性が確実に高くなり、ポピュリズムを標榜するポピュリスト政党へ投票する確率が昔に比べて高くなっている。
.  既存の右派 左派政党がイデオロギー論争を戦わせ、双方の具体的政策に鮮明な相違が目立たなくなり、且つ問題意識の高い市民の懸案事項に対して効果的対応が出来なくなってきた今日、選挙民は“どの政党も相違がなく同じではないか” と感じると同時に彼等の当事者能力に疑問も持つに至る。そのような状況下、ポピュリスト政党へ投票する傾向が大きくなってきている。
3.  危機が存在する状況下では、ポピュリストの態度がより強く顕在化する。例えば経済危機状況下では、本流の政党は “既成エリートが事態を混乱 悪化させたという類の批判” に対して大変脆弱である。更に、難民流入問題では、既成エリート政党が、国境を解放して難民を結果として招き入れ問題を惹起したにも拘らず、その後の対処が出来ていない、という批判に対して効果的な反論が出来ないでいる。ポピュリスト政党の付け入る隙が大きいのである。
4.  政権担当エリート達の堕落 不政がポピュリズム増殖の温床となっている。庶民は内向きで慇懃無礼な政権エリートに搾取 蹂躙されている、とのポピュリストの言い分は大衆の支持を得やすいのだ。このことは1990年代イタリアでまさに起こった政権交代で見られた。ポピュリストSilvio Berlusconi (のちイタリア首相を4回計9年間務めたシルヴィオ・ベルルスコー二)の台頭であった。フランスの超エリートマクロん大統領への大衆の反旗もその好例であろう。

ポピュリズム台頭の要因とそれを増殖させた土壌と社会環境を考察したが、最近の最も大きなポピュリズム関連の政治出来事と言えば、ポピュリストに牽引された英国のEU離脱とポピュリスト・トランプのアメリカ大統領就任であろう。ポピュリズム台頭の歴史と現状をみてみよう。ヨーロッパのポピュリズムの歴史は1956年オーストリアに於ける旧ナチ党員により組織されたFar Right Freedom党(極右自由党等)に始まった。1994年には20%を得票するまでに勢力拡大し、今日では連立政権の一翼を担っている。国連事務総長(1972〜81年)、オーストリア大統領(1986〜92年)を務めたクルト・ワルトハイムは元ナチ将校でポピュリストであったは定かでないが生粋の右翼であった。

1990年代にはノルウェー、スイス、イタリアでもポピュリスト政党が大きな成功を収めたが、真の成功が顕著になったのは21世紀になってからである。オランダ、フランス、ハンガリー、ポーランドへとポピュリズムの波が押し寄せていった。2000年代初頭より急速に躍進したハンガリーとポーランドの右翼ポピュリスト政権政党は前述の通り。その後、ほぼヨーロッパ全域で反既成政党を旗印に掲げるポピュリスト勢力は雪だるま式に増殖していった。特に2008年の金融危機とそれに続く経済不況、2015年の移民・難民流入問題がさらなる追い風となった。

ヨーロッパではポピュリスト政党の得票は1998年の7%から2018年には25%にまで増大した。即ち、4人に1人が投票する勘定だ。また、ヨーロッパ31ヶ国中、実に11ヶ国でポピュリスト政党が政権を担当している。ポピュリスト政党が政権担当している国の人口は1998年の1250万人から2018年には13倍強の1億7000万人にまで膨らんだ。ポピュリズム台頭の模様は以下の4図から鮮明に理解出来る。

イギリスではかのナイジェル・ファラージ率いるポ右派ピュリスト政党UK Independence Party (通称UKIP イギリス独立党)はEUからの離脱Brexit(ブレグジット)を牽引し、離脱を達成した。
ドイツにおいてはポピュリスト・“ドイツのための選択肢党”(AfD)が反EU・反移民をスローガンに2013年戦後初の極右政党として結党され、既に国内全州の州議会で議席を有しており、最近の国政選挙でも連邦議会で定数709のうち92席を占めるまでに勢力を拡大させて来た。一方、2005年から首相を務めるアンゲラ・メルケルのキリスト教民主同盟(CDU)は最近の地方選挙で完敗し、彼女は党首を辞任、首相の座も2021年の任期満了をもって退くことを表明した。移民・難民問題に対して採った寛容政策が敗因として非難される彼女が今後レームダック化することは避けられず、ドイツの今後は予断を許さない状況となった。
EUを支えるもう一つの強国フランスでもマリーヌ・ルパンのポピュリスト政党は直近の選挙で33%の得票を獲得して第2の政党へと躍進した。経済不況と国民に負担を強いる経済政策不人気でマクロン大統領の支持率は記録的に低い2割台まで急降下。つい最近の暴動にも等しい激しいデモは、国民の7割が賛成していると言われ、今後のフランスの状況を不安定 不確実なものにしている。(以下、安田ひと言) ルノー・日産どころじゃあ〜ないだろう、マクロン君 。
2017年誕生の左派ポピュリスト文在寅大統領率いる韓国は、最近の経済不振に伴い支持率が大きく漸減したきた。政権基盤が大衆の支持によるところから、前年比賃金16%アップを企業に要求、実行させた結果、企業の国際価格競争力が大幅に下落すると同時に企業側が雇用を絞るようになり、特に若者の犠牲が深刻で失業率も高くなり、消費低迷から景気後退をもたらしている。意図した大衆を満足させる(迎合する)ポピュリズム政策が裏目に出て、逆に大衆に犠牲を強いているのは皮肉な結果である。(安田コメント: 内政の苦境 の状況下、“赤化・従北・反日” に活路を求めて求心力を維持せざるを得ない状況は大変危惧される。起死回生とばかりに勇み足的な政策実施がこれら3課題の対応でも目立ち、今後は非常に不安定 不確実であり、大きなリスクをはらんでいる。)
(以下、次回)