エーガ愛好会 (267)  夕陽に立つ保安官   (34 小泉幾多郎)

冒頭、ミラード・フライモアなる者の葬儀中に、墓穴から金が見付かる大騒動となる巧みな導入から始まる西部劇コメディは、先日4月26日放映された「地平線から来た男1969」に先立ち制作されたバート・ケネディ監督ジェームス・ガーナー主演の「夕陽に立つ保安官1971」。西部劇コメディであるが、それよりも、西部劇というジャンルそのものを茶化している。特に茶化す対象と考えられるのが、「荒野の決闘」「真昼の決闘」「リオ・ブラボー」か。

まずは、この金鉱の町に雇われ保安官となるジェームス・ガーナーが、「真昼の決闘」のゲーリー・クーパーや「リオ・ブラボー」のジョン・ウエインのようなカリスマ性を持ったヒーロー・タイプではない。それでもコメディお決まりの銃はからっきしダメな男ではなく、放り投げたコインを撃ち抜き、ガンプレイでも悪漢を早撃ちで仕留める保安官でもある。「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダなみに、ポーチに据えられた椅子を揺すりながら睨みをきかせる場面もある。またオーストラリアへ行く途中にこの町へ立ち寄ったというセリフを何回も口走るが、アメリカからフロンティアが消滅しつつある時代が舞台であることを示している。副保安官としてジャック・イーラムを採用することで、漫才で言うボ
ケを演じさせる。

冒頭の金を見付けるのが、この町の町長ハリー・モーガンの娘ジョーン・ハケットで、本来ヒロイン役が騒動に巻き込まれ泥だらけになったり、樹に登ったりとじゃじゃ馬ぶりを見せつけることはない筈だが、これも「真昼の決闘」のクエーカー教徒グレース・ケリーのアンティテーゼの役割を演じたのか。「荒野の決闘」の悪役アイク・クラントン、「リオ・ブラボー」の牢屋番スタンピーを茶化した役回りとして老優ウオルター・ブレナンが情けない悪党を演じる。最初に殺人容疑で捕まるブレナンの息子ブルース・ダンも鉄格子のない牢屋から脱走もしない。その後鉄格子が嵌められた後ブレナン等3人が馬に縄を付け引っ張り脱獄を図り、当然鉄格子がはずれる筈が、引っ張り切れず3人転倒して失敗、等々。最後の決闘クライマックスシーンにしても、ガーナー、イーラム、ハケットの3人対ブレナン側の一族十数人と対決、嬉々としてライフルをぶっ放すのは、好戦的な娘ジョーン・ハケットが二人を殺害するだけで、逆にガーナーに窘められる。決闘途中に、ガーナーが射撃をやめるよう叫ぶと射撃を中止したりする殆んど死人の出ないアンチクライマックスな様相で、最後は捕まっていたブレナンの息子ダンが旧式の大砲に縛り付けられ決着する。結果はハケットと結婚したガーナーは州知事に、イーラムが2代目保安官として伝説的人物になって終わる。

(編集子)そもそも、”荒野の決闘” にけちをつけるエーガだというのがけしからん。なんて奴だ。そういうものがあってはならない。だめだ。小泉リポートによればかのグレース・ケリーを茶化し、ブレナン老に惨めな役をさせてるというではないか。なんてエーガだ。

今日はすることもなし、DVDプレーヤを引っ張り出して、”真昼の決闘” のケリーに ”リオ・ブラボー” でのブレナンを何年振りかで再見しようっと。