平野・サンデル討論を聞きました    (42 河瀬斌)

懇親会に参加の敵わない平井愛子さんに代わって平野啓一郎とマイケル・サンデルの討論を聞かせていただきました。ご示唆ありがとうございます。
 大筋の趣旨をまとめますと次の通りです。現在の日本にとって経済格差が拡大していますので、大変重要なテーマだと思います。
1)平野:日本人はそれは自己責任で多くは本人の問題と捉えている。これをどう考えるか?
サンデル教授の意見:(大谷翔平の例をあげて)成功者になるか否かは主に長期的な本人の努力や才能による。しかし必ずしもそうではなく、経済的に豊かな環境にいてそのような機会が得られたか、そして社会が偶然それ(野球文化など)を望んでいたか、などの運にも左右される。
 成功者は従って社会にその一部を還元する寛容さが必要である。日本の累進課税はそれを擁護する税制で、支持できる。良い社会を保つためには成功者が寄付の文化に貢献することも重要でしょう。

2)平野:金融投機による利益をどう思うか?

サンデル教授の意見:現在の日本では会社の経営を安定させる目的で投機に向かう理由もある。しかしAIなどの会社など巨大な資金を持つ会社や個人が有利になりがちな、投機による利益を制限すべきである。高齢者の貯金を投機に向けようとする動きにも問題がある。
3)平野:実質的に社会に貢献している労働者が利益を得られるようにするにはどうしたら良いか?(例えば保育士の給与が相対的に低く、社会貢献度に見合っていない)
サンデル教授の意見:現在就労している職種だけでなく、それ以外の潜在的能力を総合的に評価し、それに見合った給与を与えるシステムが必要である。
(河瀬の意見)
大筋でサンデルさんの意見に賛成ですが、下記の日本の独特な状況があります。
1)人に負けない才能を得るために努力を惜しまないのは「自己責任」の賜物です。日本には『銭より責任を持つ仕事が大切』と教えられた時代がありました。運も時には「先を見る千里眼」が運を運びます。しかしその成功者は「累進課税」への貢献だけでなく、社会の面倒を見る「寄付文化」にも貢献すべきでしょう。日本では松下幸之助がその先人ですので、昔の良さを取り戻しましょう。
2)日本の経済格差は土地などの不動産によるものが多いこれは一種の金融投機で、バブルの時に問題になりました。これが最近形を変えて再燃しているのです。特に東京近郊では土地の値上がりで得た近郊農家の相続者や高級タワーマンションの暴騰で得た都会周辺の「働かざる利益者」と、兎小屋の自宅を得るための重いローンに苦しむ「サラリーマン」や「コロナ下で崩壊した零細企業」の間で大きな経済格差を生じている、と思います。
 不動産の値上がりは、新しくできた公共交通によるものが大きいので、その不動産利益をもっと厳しく制限し、そのコミュニティーに住もうとする人たちにその利益を還元できる(国の税金収入ではなく、ふるさと納税のような)システムを作れば、より良い街が作れると思います。現在この方式は人口の減少している地方で行われるようになりましたが、都会周辺でも構築すべきでしょう。
3)日本人には独特の『職人気質』があり、それが昭和までの国を支えてきました。その人たちが次第にいなくならないような給与体系を今、根本的に見直す必要があります。加工職人だけでなく、国の発展に必ず必要な、学校の先生、保育士、医療介護士、研究者も割に合わない給料から至急救われるべき職業でしょう。