アフガン情勢から導かれる話    (普通部OB 田村耕一郎)

友人から送られてきた、フランスの思想家ジャック・アタリのメッセージをご紹介する。

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私たちは8月のアフガニスタン政権の崩壊から、忘れられがちな法則を思い返す必要がある。実現の可能性が非常に高いと考えられることは、一般的な予想よりもずっと早くに起こるという法則だ。米軍がアフガン撤収を発表すれば、イスラム主義組織タリバンが首都カブールなどを制圧するのは明らかにも思えたが、1年以上かかるとの見方が一般的だった。
1988年秋ごろには、東欧民主化やドイツ再統一などが「いつの日か起こる」ことが明白になった。当時の米国のブッシュ(第41代)大統領が89年12月、私と
の会話で「ドイツ再統一までには少なくとも10年はかかる」と語っていたのをおぼえている。ところが、実際には1年もかからなかった。

もちろん、法則が当てはまらなかったこともある。フランス革命は十分に予想できたが、一部の啓蒙主義者の予測よりも後に勃発したといえる。だが現在、状況は変化し、歴史の歩みが加速した。理由はたくさんある。例えば、民衆を制御することや矛盾を放置することが難しくなったことが挙げられるだろう。

まず、歴史の歩みの加速は、気候変動から実感できる。気候変動が現実であることは繰り返し発表され、科学的に証明され、記録に残っている。しかも、気候変動の影響は5年前の見通しよりも切迫していることが日々実感できる。対策を講じない限り、2050年に起こると言われていたことが、25年にも起こりうる。
次に、新型コロナウイルスの感染拡大だろう。現在よりさらに危険な変異ウイルスの出現を防ぐには、少なくともワクチン接種を義務付けるしか方法がなさそうだ。わかっていながらも認めようとせず、対策を先延ばしにし、強制しないふりをする。何らかの別の対策を打つべきでも傍観する。するとある日突然、ワクチン接種を義務付けることになってしまう。

社会や政治などの面で深刻な問題に直面する中国共産党が、台湾への軍事的な賭けに出ることで、問題を先送りしようとすることもわかっている。わかっていながらも、実際には起こるはずがないというふりをする。しかし、中国の武力行使は我々が思っている以上に早期に起こるかもしれない。

米国が現在の同盟国を保護しようと思っても、能力を失い、欧州など世界各地から軍隊を撤収させることも明白なようにみえる。しかし、どの国も準備をしていない。一方、米軍の撤収により、特に欧州連合(EU)は自衛権について考え防衛力を整備するきっかけを得られるのかもしれない。

国際情勢だけではない。仕事や友人、家族など、自分の身の回りも同じような状況に置かれているかもしれない。「出来事はすぐには起こらないだろうし、まったく起こらないことも考えられる。従って心配しなくてもよい」と考える。ところが倒産や死別、言い争い、破局といった直視したくない出来事は往々にして予想より早く起こる。予期していなかったのに、「自分は予期していた」と語る者まであらわれる。さらに多いのは、準備不足で苦しむ者たちだ。

こうした出来事を探してみよう。自分にとって望ましい出来事なら、到来を早めるために即座に行動しよう。恐れている出来事なら避けるために、あるいは少なくとも備えるため、自分に何ができるかを考えてみよう。
地政学から私生活まで、やるべきことはたくさんある。気候変動問題はまだ回避可能で、中国周辺の海域で戦争が起こると決まったわけでもない。公私を問わず、多くの場面でサバイバルの鍵となるのは、先手を打つことだ。

ジャック・アタリ(Jacques Attali)

フランスの経済学者思想家作家、政治顧問。旧フランス領アルジェリアの首都アルジェ出身のユダヤ系フランス人ミッテラン政権以後、長きに渡り、仏政権の中枢で重要な役割を担った人物として知られ、つづくサルコジオランドマクロン大統領にも直接的な影響を与えており、フランスのみならず欧州を代表する知性のひとりと目されている。仏国内において経済、思想から伝記、小説、回顧録に至る幅広い著作で知られ、 『ノイズ──音楽・貨幣・雑音』、『アンチ・エコノミクス』、『2030年ジャック・アタリの未来予測(原題ーVivement après-demain)』など50冊以上もの本を出版している。日本では教養・思想面の著作翻訳が多く出版され、広く読者を得ている。