ミス冒愛好会 (11)  ”そして夜は甦る”” のこと  (普通部OB 菅原勲)

「そして夜は甦る」(ハヤカワ・ポケット・ミステリー。1930番)を本日、図書館からやっと借りだし、澤崎に会った。そして夜は甦った(夜は甦るとは、具体的に何のことを言っているのか未だに判然としない!)ってな書き出しは、そんなに悪くない。しかし、ド素人の哀しさ、その後がまったく続かない。

30章までは、減らず口は叩くものの、行動で物事を追求し、解決して行く澤崎は、正にハードボイルドの典型的な探偵だ(それに較べ、R.チャンドラーのP.マーロウは饒舌過ぎる。例えば、「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」なら、マーロウは自身の行動でそれを示せば良いわけで、何もペラペラと喋る必要は全くない)。

しかし、本格探偵小説に倣って、最後に関係者一同を集めて、澤崎が解決の講釈を垂れるのは、ハードボイルドにあるまじき行為ではないかと、小生、大変、失望した。その上、何も意外な人物を犯人に仕立て上げる必要なんてさらさらない。九仞の功を一簣に虧とはこのことか。残念無念。

(中司)ポケミス版のあとがきで、著者自身もそのことを認めている。当初はHBと謎解きミステリの併合ということをもくろんで自分なりに満足していたが、”HBの主人公が終盤になっておもむろに頭脳明晰な名探偵の様相を呈し始めること” に気がつき、この二つの傾向を併合した形をあきらめて、純粋なHBを時間をかけて書くことに決めた” とし、その成果として 愚か者死すべし と それまでの明日 で確認してもらいたい、としている。彼はこの転換をもって自分の作風を第一期、第二期にわけている。彼の言う第一期の最後になる さらば長き眠り と 第二期を画すと自称する それまでの明日 が双方とも手元で遊んでいるのでご興味あらばお貸しできる。ご一報あれ。

(菅原)手を煩わすのが申し訳ないので、最新作「それまでの明日」、早速、図書館に予約を入れた。どうやら港区は、5/6館ある全図書館で各一冊在庫があるようで、直ちに借りられそうだ。本物のハードボイルド、いや、R.チャンドラー以上のものを楽しむことになりそうだ。

(中司)タイトルについての疑問も同様。彼は先日書いたが映画 狼は天使の匂い にほれ込み、その英語タイトル And Hope to die に続く意味で そして と始めた、と書いているのだが、この映画のフランスのタイトルが何でこの英語タイトルになったのかも全くわからないし、大学で美学を専攻しモダンジャズのソロピアニストだったという著者の感覚がどんなものなのか、考えて見ないとわからないね。