エーガ愛好会 (271)トリビアを楽しむのはいかが

先回、小泉さんの ”アラモ” 評のところで ゲッタウェイ のことを思い出したことを書いた。このマックイーンの代表作、ストーリーを覚えている方なら、終盤近く、マックイーンが銃砲店に飛び込んで銃を買うカットをご記憶だろう。このカットのことを、HB短編小説の作家であり、自身,ハンティングの名手でもあった稲見一良(いなみ いつら)は其の著書 ”ガン・ロッカーのある書斎” で次のように書いている。

映画 “ゲッタウェイ” で、警官に追われたスティーブ・マックイーンが銃砲店に飛び込んで12番径の散弾銃を買う。字幕ではネグられてしまったが、”ダブル・オー・バック!” と指定して鹿弾を一箱(25発)買う。(中略) すさまじい迫力でパトカーを破壊し、エレベータを墜落させ、ギャングを倒すショットガンの銃声を試写室で指折り数えていると25発、つまりちょうど一箱撃った。その瞬間、マックイーンは銃を捨て、素早くベルトの拳銃を引き抜いたものだった。

”ダブルオーバック”は、一個が7mm もある大粒弾が九個詰まった強力な弾丸だそうで、マックイーンが ダブルオーバック! と言った時、店主は ”塀でも倒すのか” ときいているくらいだ。稲見は作家としてそれほど知られた人ではないが、アマゾンで中古本を買ってみると、自分の銃とのつながりを主題にした、きれのいい短編がいくつかあった。不治の病に侵されていることを知った人間だけが書けたのか、と思われるトーンのある作品が多いとされているが、”ガン・ロッカーのある書斎” は我々一般の人間がおよそ知らない銃器に関する知識や背景や歴史を知るにはまたとない参考書として、ガンプレイの出てくる作品を読むときのサブテキストの役を果たしている。

ジョン・ウエイン壮年期の傑作 ”赤い河” を何度目かに見たとき、この映画の原題名 Red River が、小生の無二の愛唱歌となっている Red River Valley  と関係があるのか、という事に思い至って多少の調査をしたことがある(本ブログ2020年5月15日付け ”赤い河をめぐって”。実はこれが ”エーガ愛好会” シリーズの第一号である)。その時、もう一つ気がついたことがあって、書いたことをここでコピーしてみる。

終わり近くになって、バックに流れるテーマ曲が、 Red River Valley と並んで僕の愛唱歌である My Rifle my pony and me  (これもウエインの代表作 リオ・ブラボー で、ディーン・マーティンが歌いリッキー・ネルソンがギターを弾く、なんせ、いいんである)と同じことに気がついた。そこで終わった後、何もあるまいがダメモト、とおもいながらグーグルに ”Red River, My Rifle and Me” と入れてみたら、なんと!一発でアメリカ人の女性が同じ質問をしていて、その道の専門の人が明確に答えをだしているではないか。この広い世界で同じ経験をした人がいるということもうれしかったが、この解説によると、この2本は主演ジョン・ウエイン、監督ハワード・ホークス、音楽ディミトリ・ティオムキンという共通点があり、1959年に作った ”リオ・ブラボー”にティオムキンが原曲をそのまま使ったのだそうだ。

エーガ或いは映画、を見る見方は人によって千差万別だろうが、再見、再再見にはこういうトリビアに凝ってみるのも一興ではないか。”やっこ” 金藤情報によると6月4日 (あさって!)にわが ”ゲッタウェイ” の放映があるとのことなので、何回目になるか、また見るつもりだが、今回は稲見のいう ”25発” を数えてみよう。各位にも試してみてもらいたい気もするがどんなもんだろうか。

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(いなみ いつら、1931年1月1日 – 1994年2月24日)は、日本小説家放送作家大阪府大阪市出身。

記録映画のマネージメントを務める傍ら、1968年文芸誌の新人賞に入選、しかし多忙のため作家活動に専念しなかった。1985年肝臓癌の手術を受けるが全摘ができないと分かると、生きた証として小説家活動に打ち込むと周囲に宣言し、1989年『ダブルオー・バック』にて本格的に小説家デビュー。1991年『ダック・コール』にて数々の賞を受賞し期待されるも、1994年わずか9冊を残して癌のため没した。作品は自身の趣味であった猟銃の知識を生かしたハードボイルド推理小説で、少年の視点・目線やニヒリズムを取り入れたものであった。