バイデン大統領の発言について   (44 安田耕太郎)

バイデン大統領の5月1日の発言が物議を醸している。ホワイトハウスは火消しに躍起になり、日本政府は正式にアメリカ政府に対し、「日本の政策の正確な理解に基づかない発言は残念だ」と遺憾のコメントをだした。英国BBCのアメリカ駐在特派員の記事(原文)は以下の通りである。

アメリカのジョー・バイデン大統領は1日夜、日本とインドには「ゼノフォビア(外国人嫌悪)」があり、「移民を受け入れたがらない」国だとして、ロシアや中国と並べて語った。アジア系アメリカ人が多く集まる選挙資金集めのイベントで発言したバイデン大統領は、今年11月の大統領選では「自由とアメリカと民主主義」が問われるものだとしたうえで、「なぜか? 私たちは移民を歓迎するからだ」と話した。
 
「考えてもみてください。どうして中国は経済的にこれほどひどく停滞しているのか。どうして日本は大変な思いをしているのか。ロシアはどうして? インドはどうして? この国々は、外国人を嫌っているからです。移民に来てほしくないから」インドについては、アメリカ国務省インド国内の人権状況について懸念を示しているものの、インドもアメリカにとって重要な協力国のひとつである。
 
ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は、大統領の発言はアメリカの移民政策全般に関するものだったと述べた。「我々の同盟国や協力国は、いかにバイデン大統領が自分たちと友情と協力を重視しているか、具体的な形で承知している」、「大統領がいかに同盟や協力関係を全面的に徹底的に重視しているか、(各国は)理解している」と強調した。
 
日本の在米大使館は3日、アメリカ説明によるこうした説明を承知しているとによると述べ、日本の政策の正確な理解に基づかない発言があったことは残念だ」とコメントした。日本政府は数十年にわたり世界でも特に厳しい移民政策を施行していたが、近年では人口減を受けて外国人労働者の受け入れ拡大に取り組もうとしている。

(安田)日本の将来を語る時、少子化、人口減少、労働力不足、GDP鈍化、経済成長停滞、貧困化の問題は深刻に受けとめられている。人口減歯止めと労働力補強の観点から移民政策問題と深く関わり、昨今論じられている。

 
移民について西欧主要国をみると、ドイツはトルコ・東欧/バルカン諸国からの移民を受け入れ、今や彼らの労働力無くして経済が成り立たないほどの重要な位置をしめ役割を果たしている。ECに於けるもう一つの雄フランスをみると、世界各地の旧植民地国家、特に北アフリカ・イスラム教諸国からの移民が目立ち、フランス経済に貢献している。移民の経済面に於ける貢献と役割は疑う余地はないが、負の面も正しく理解されねばならない。2021年現在ドイツの人口は8324万人で、その内27.2%(2230万人)が外国人または移民系だ。この内53%(1180万人)がドイツ国籍を持っている。残りの47%
(1050万人)が外国籍である。出生率を見ると、生来のドイツ人は1.52だが、これら移民系の人々は2.26と高い。
フランス仏総人口の10.3%が移民=2021年統計によると、移民(外国で生まれた外国人で、フランスに居住する者。 帰化の有無は問わない)は2021年に700万人程度となり(うち36%はフランス国籍を取得)、全人口の10.3%を占めた。
 
2022年6月末時点の日本の在留外国人数は296万1,969人(出入国在留管理庁)である。さらに人口推計では、外国人は2022年以降毎年16万3791人増加する前提である。その場合、2070年の外国人の人口は、約1,082万人となる計算だ。これはその時点の推計人口全体の12.4%に相当する。2022年の外国人比率は2.4%である。その比率が約50年後の2070年には12.4%まで上昇する、つまり外国人の比率が現在の50人に1人強から10人に1人強にまで高まるのである。現在のフランス並みとなる。それは日本社会にとってはまさに劇的な変化と言えるだろう。
 
長期的に将来を俯瞰する時、無視できなくなった移民人口は、居住する国に於いて国籍を有するに至るが、民族・出自・宗教・文化・習慣・価値観は自ずと居住する国の国民とは異なり、社会の分断の原因の一つとなりうる。移民は多分に労働集約的な低賃金労働に従事することから、相対的に貧しく貧富の差に起因する社会の分断をもたらす原因にもなり得る。そして、貧富の差、異民族の混在がもたらす社会の不安定化、移民に対する国民の反感と過激化する右翼の運動、治安面や犯罪増加リスク増大など経済的メリットとは裏腹に社会の安定と安寧に対するコスト(犠牲)を強いられるのは避けられない。現在でも移民社会がもたらす負の面が社会の不安と不穏という形で、ドイツやフランスで散見されている。移民国家アメリカでは今世紀後半にはWASPに代表される白人人口が総人口の半分を割り込み、ヒスパニック系人口が最大になるとも予想され、移民の高い出産率と相まって一旦移入して定住すると国籍も獲得することから、問題は継続且つ深刻化する可能性は高い。
僕は移民による経済的メリットや国家運営の選択肢には反対する。勿論、白黒が鮮明につく簡単な問題ではなく、広範囲なグレイの諸問題に正しく対処する必要はある。
単一同民族(homogeneous)国家として、現在、皆が当たり前と捉えている社会の安定・安心と安全、居心地良い社会を維持継続することが肝要だと思う。謂わば、国家運営のハードの面より、文化・生活面のソフト重視の考え方でもある。
(船津)日本は移民を受け入れて上手く調和して労働力になるのは時間を要すると思いますし、移民を結局受け入れないのでは。じゃどうする。困ったもんだぁ。英語教育のMethodが進んでいるのは米国でいち早く米国語が使える人にしたいため教え方も進んでいます。日本は日本語を誰がどう教えるかも未だよくわからないし、教育方法も定まっていない。色々問題在りですね。
(菅原)一言。あらゆる点で、日本が日本でなくなる日が来ないことを切望します。
(編集子)最近の移民(不法移民)について、米国内の議論は様々だろう。黒人が 今住んでいる自分たちの問題を差し置いて不法移民に職を与えるのか、と猛反発している、と聞く。現在アメリカで問題化しているのはヒスパニック人口の急増で、中南米からの不法移民はそれに拍車をかけ、差別化を感じている黒人層の問題をさらに難しくするだろう。片や日本でも、最近は外国人労働者による犯罪が明らかに急増している。単なる数字の上での議論だけで移民に頼ることしか手段はないのか?
(河瀬)“Xenophobia” は移民を良しとしない国の定義で、「外国人を歓迎しない国」とは異なりますね。

日本やインドは人口過剰国ですので当然でしょう。
米国もこれ以上移民が増えれば次第にXenophobiaになるでしょう。バイデン発言を気にする必要はありません。