乱読報告ファイル (43) ”戦争もの” 乱読記 (普通部OB 菅原勲)

以下の“戦争もの”を立て続けに読んだ。

1.「暁の宇品」(ノンフィクション)。添付の感想をご覧ください。

2.「銃弾の庭」(フィクション)。著者:S.ハンター。連合軍、ノルマンディー上陸後、米軍を悩ませて来たドイツのスナイパー(狙撃手)を、同じくスナイパーのアール・スワッガーがやっつけるお話し。

3.「暗い波濤」(フィクション)。著者:阿川弘之。ミッドウェイで米国にボロクソに負けて以降、終戦(敗戦)までを、海軍第二期予備学生たちの群像を中心に描いた負け戦のお話し。

ノンフィクション、「暁の宇品」、副題が「陸軍船舶司令官たちのヒロシマ」を読む(著者:堀川恵子、出版:講談社、発行:2021年)。宇品港(現広島港)を作った広島県令(知事)、千田貞暁の一字を取って、その司令部は「暁部隊」と呼ばれた。

亡くなったノンフィクション作家、立花隆(例えば、「田中角栄研究」、「日本共産党の研究」など)が堀川を極めて高く評価していたが、それを裏切らない出色のノンフィクションだっ

た。ただし、以前、堀川が亡夫、林新の原稿を基に書いた「狼の義 新犬養木堂伝」を読んでいたから、これが初めてのことではない。

勿論、題材が殆ど知られていない陸軍の船舶部隊のことだったことにもよるが、事実を徹底的に調べぬき、それを一つの物語に仕立てた手腕は並大抵のものではない。

その内容は、陸軍と言っても戦闘の話しではなく、戦闘に欠かせない兵員輸送と兵站の話しだ。日本と言う島国からは、戦闘員を目的の大陸、島などに輸送する手段が必要となる。勿論、兵站についても同様だ。だが、日本では、海軍が自分のことで手一杯であったことから、そう言った輸送は陸軍がやることになった(他の主な国では海軍がやっており、日本の場合は長州[陸軍]、薩摩[海軍]の軋轢があったが故の話しとも言われている)。

しかし、陸軍に船舶の建造能力などある筈がなく、船員も含め全て民間の商船などを徴用して輸送船とせざるを得なかった(この戦争で、7200隻以上の商船が、撃沈されたと言われている)。これら裏方の業務を一手に引き受けたのが、軍港である宇品にあった陸軍船舶司令部だ。呉が海軍の軍港であり、宇品は陸軍の軍港だったわけだ。

なかでも注目すべきは、陸軍の船舶輸送制度を整備し「船舶の神」と言われ、昭和12年(西暦1937年)から15年(同1940年)、宇品の陸軍船舶司令官だった中将、田尻昌次の止むに止まれぬ建白書だ。田尻は、日本の兵站の脆弱性、致命傷を充分に知悉、熟知していただけに、米国との戦争は勿論のこと東南アジアに南進することさえも無謀であることを陸軍の中枢のみならず各省にも訴えている。しかし、船舶司令部内で不審火があったことを理由に、事実上、解任されてしまった。

また、原子爆弾が広島に投下された際、陸軍船舶司令官だった佐伯文郎中将の果敢な行動も忘れ難い。当時は、本土決戦も有り得る戦況だったが、佐伯は、独自の判断で(広島の陸軍は壊滅)、全兵力を燃え盛る市内の人名救助と災害復旧に割いた。放射能汚染の危険をも顧みず、戦闘司令部を市内の中心部に置き、自ら陣頭指揮を執った。実は、彼には、関東大震災の時の陸軍の支援活動の経験があったのだ。

その結果、今、呉が、依然として、海上自衛隊の拠点になっているのに対し、宇品には陸軍船舶部隊の影も形も残っていない。

これを読むと、作中、田尻が建言して、実質、解任されたように、当初から、日本は戦闘に必要な兵站を充分に考慮しておらず、大東亜戦争が全く無謀な試みであったことが良く分かる。それにしても、今にして思えば、日本は、途轍もなくバカなことをやったもので、つまるところ、その実体は、「ナントカナル」と言う得体の知れない代物だった。

(編集子)むむ。”暗い波濤” を読んだか。俺は感動して読んだね。いま、ひょととしたきっかけがあって、逢坂剛の イベリアシリーズというのを中古で買ってきて(アマゾンで一冊150円)最後の一冊を読んでる。貴兄ご指摘の全く無謀な戦争に至る背景(英国はアメリカの参戦を待つためどうしても日本に戦争を始めさせたかった、という見方)がメインの筋立てで、スペインという結局は中立で押し通した国の事情がなるほど、と思わせる。

直接関係はないが、貴兄の文章でながいこと疑問に思ってることがある。はなし、という単語に し という送り仮名は必要なのか? 小生かなづかいなんか気にしたことがないので、当用漢字が設定された時になにか決まりが設定されたんだろうか、という事を今さら尋ねるのも気が引けて今まで来た。ご解説賜れば幸甚にて候。