エーガ愛好会 (186) 悪魔のような女  (44 安田耕太郎)

監督は巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾー。同監督の世紀の名作1953年制作のイヴ・モンタン主演「恐怖の報酬」の2年後1955年制作のフランス映画サイコスリラーの傑作。クルーゾーはサスペンスやフィルム・ノアールの監督として有名。日本公開当時のポスター(写真貼付)には「映画史上とんでもない大作!!」なる刺激的な見出しが踊っている。

クルーゾーは、映画史上初めて世界三大映画祭(ヴェネティア・カンヌ・ベルリン)の全てで最高賞を受賞した監督でもある。また、ヌーヴェル・ヴァーグの生みの親とも言われている。「悪魔のような女」でシモーヌ・シニョレ(当時34歳)と共演したもう一人の主役を演じたヴェラ・クルーゾー(当時42歳)は監督の妻(1950~60年)で、「恐怖の報酬」に続いて夫の監督作品出演。

この映画公開から現在まで77年経ち、この類のスリラー映画は珍しくなくなったが、公開当時の衝撃の大きさはいかばかりかと想像に難くない。チャールズ・ロートン監督の1955年作品「狩人の夜」、ビリー・ワイルダー監督の1957年作品「情婦」、ルイ・マル監督の1958年作品「死刑台のエレベーター」、ヒッチコック監督の1960年作品「サイコ」などと並ぶサスペンス、サイコスリラーの傑作だと思う。モノクロ映像の光と陰そして音、更には鏡、酒、木箱などの小道具を巧みに使う監督の卓越した手腕が、映画ストーリーの不気味さと恐怖を駆り立てている。全編を通して謎と気持ち悪さが続き(不気味な音楽とモノクロ画面がより増幅させて)、最後までドキドキさせられる。

哀れな死に方をした不幸な妻を見事に演じたヴェラ・クルーゾーはこの映画の5年後、映画の結末のように亡くなる。享年46。1960年の映画「真実」のメガフォンを執った夫アンリ=ジョルジュ・クルーゾーは主演女優のブリジット・バルドーとの親しい仲が取りざたされ、それを苦にしたヴェラは神経衰弱に陥りパリのホテルの浴室で心臓麻痺を起こし急死。服毒自殺との説もある。

映画で元警視の探偵役を演じ事件の解決に一役買ったシャルル・ヴァネルは「恐怖の報酬」でイヴ・モンタンと共演し、カンヌ映画祭男優賞を獲得している名脇役だ。サイコスリラーの古典とも言うべき見応えのある面白い映画だった。