エーガ愛好会 (197) ジャイアンツ  (44 安田耕太郎)

原題Giant (単数形)に対して邦題「ジャイアンツ」は何故か複数形。5億バレル以上の巨大油田の事を業界ではジャイアント(級)と呼ぶとのこと。1バレルは約160リットル。5億バレルは800億リットル。日本の石油消費量は年間2,000〜3,000億リットル。ジャイアントの巨大さが理解できる。これが映画の題名の由来であった。もっと大きい油田はelephant(級) エレファント・象と呼ぶそうだ。舞台は1920年代のテキサス。アメリカではテキサスはカルフォルニアと並んぶ油田地帯。ロサンゼルス近郊でよく目にした、原油を採掘するために使う井戸である陸上の油井(ゆせい)では、地上から油層(原油を含有する地層)にボーリング穴を穿ち、パイプが入れられる。原油は、このパイプを通じて掘削機で取り出される。映画にも登場した多くの掘削機が林立する様は壮観だった。

南北戦争当時のジョージア州を舞台にした「風と共に去りぬ」、1,870年代のテキサスを舞台にした「大いなる西部」などと共に、テキサス州の牧場に住む家族の30年にわたる有為転変の人間模様の物語を時代の変遷と共に描いた大河ドラマだ。人間社会のパラダイム・シフトを予見させるような視点で描かれた映画でもあると思った。

59.5万エーカー(50km x 50km ほどの広大さ)の大牧場を経営するロック・ハドソンは東部の名門の娘エリザベス・テイラーを妻に迎える。ハドソン経営の牧場で働く使用人ジェームス・ディーンを交え3人の絡みを中心に物語は展開する。東部出身のせいかテキサスの空気に馴染めないテイラーの役柄は、やはり東部出身で苦労した「大いなる西部」のグレゴリー・ペックの役柄と合い通ずるものを感じさせる。だが両映画では両者とも、次第に地元にしっかりと根を張る逞しい生き様が描かれる。映画では主役3人のクレジットは、テイラー、ハドソン、ディーンの順で登場するが、映画を観てもテイラーが一番の主役だと頷けた。当時23歳のテイラーの美しさが際立っていた。娘役キャロル・ベーカーの実年齢は何とテイラーより1歳年長!60歳近い婦人まで演じるには少し若く綺麗すぎるきらいはあったが、それも致し方ないだろう。

ハドソン牧場のひねくれの若い牧童ディーン(当時24歳)が油田を掘り当て、黒い原油が地表高く噴き上がり彼が油をかぶり歓喜雀躍の感情を露わにするところ。物語が180度展開するきっかけとなった場面だ。

牧場の後継を拒絶して医者になる長男役のデニス・ホッパーは「理由なき反抗」に続いての出演で、15年後の「イージー・ライダー」の円熟に比べて初々しい姿が眩しかった。彼は周囲の反対を聞かずメキシコ人女性と結婚する。この人種に関わる物語展開は映画が描く重要なテーマの一つだった

ディーンは、密かに想いを寄せる憧れの人妻テイラーを彼の掘っ立て小屋に招いて、貴重な紅茶でおもてなしをする静謐なシーンは好きですね。両者とも実年齢は23〜24歳頃。ディーンの演技は嫌味もなく、テイラーの凛とした人妻の気高さと、にじみ出る優しさが素晴らしい。好い場面だった。

監督のジョージ・スティーヴンスは、「陽に当たる場所」に続いてテイラーを起用し、「シェーン」「アンネの日記」など秀作を演出した巨匠だ。音楽は巨匠ディミトリー・ティオムキン。枚挙に暇がないほど馴染みの曲が思い浮かぶ。「ローハイド」「ナバロンの要塞」「北京の55日」「アラモ」「OK牧場の決闘」「リオ・ブラボー」「真昼の決闘」「老人と海」「見知らぬ乗客」「赤い河」「西部の男」「不思議な国のアリス」など。「ジャイアンツ」の主題曲もテキサスのスケールの たおやかさ を醸し出していた。

ハドソンの姉は東部出身の義理の妹テイラーに冷たいが、使用人のディーンには優しく親切であった。しかし急逝する。少しばかりの土地をディーンに相続したが、家族は現金で買い戻そうとするがディーンは拒絶する。ブームに成りかけていた油田採掘の運に賭けたのだ。時代の波に乗り、油田を堀り当て石油成金の大富豪になったディーンは、ハドソンを凌ぐ金持ちになった。富を得たことで野望を果たしたが、ディーンは満足感・幸福感を持てなかった。憧れの女性テイラーは他人の妻で如何ともし難い。空虚感に苛まれ自暴自棄になって生活が荒れるのである。そして悟るのだ。富では幸せは得られないことを。

家族の不和、長男の後継者拒否とメキシコ女性との結婚、そして孫の誕生、娘の仕事選択にまつわるゴタゴタなど、人種問題や女性の社会に於ける立ち位置、人生の価値観と幸福感をテーマにしたような物語になっていく。最後は老いたハドソンが立ち寄ったレストランで黒人がサービスを拒否される現場を目撃して店主と殴り合いの喧嘩をする程のリベラルな人に変わっていく。夫婦は紆余曲折を経て、辿り着いた安寧と充足感に満ちた姿を見せるのであった。

(保屋野)掲題、久しぶりに観ました。西部を舞台とした(西部劇ではない)家族の物語。ストーリーも面白かったけど、やはりE・テーラーの美しさが際立つ作品ですね。もちろん、R・ハドソンやJ・ディーン等の脇役も魅力的でした。

そして、あの主題歌とラストの名曲「テキサスの黄色いバラ」も良かった。
主題歌は確か小坂和也が「山よ谷よ・・・」と歌ってましたね。

「幸せは金で買えない」のは事実ですが、「金は幸せの大きな手段」というのも事実、まあ、何事も「ほどほど」なのが一番ということでしょうか。