コロナ対策は重大な岐路に立っています  (34 船曳孝彦)

新型コロナ肺炎(最近の病態は上気道炎と言った方がよいかもしれない)第7波は、夏休み・お盆の影響もあり、衰えを知らない高止まりの状況が続いています。おそらく皆さんの周りでもそうだと思いますが、いまや身近に感染者が発生しているのではないでしょうか。前報時には60~70%が感染しているのではと書きましたが、今や50人に1人以上ではないかと思われます。後述しますが、これから先はこの見当もあやふやとなってしまいます。

世界的に大きな波だった第5波の倍以上に大きな第7波ですが、欧米ではそれほどの大波ではありません。第7波の大部分はオミクロンBA-5亜株ですが、BA-2.75亜株が出てきました。感染し易さはBA-2と比べBA-2.75は1.36倍(BA-5は1.19倍)です。いずれBA-2.75が大部分を占めるようになるでしょうが、現在のシェアは明らかではありません。幸い致死率が高いとは言えないようですが、総数が増えれば医療逼迫に直結しますし、死亡総数も増えます。現在のコロナ問題は多岐にわたり、重大な危機にあります。一言でいえば戦後日本の目標だった【科学立国】の崩壊元年となりそうだということです。

医療逼迫が現実問題として危なくなってきました。医療関係者への4回目のワクチン接種が遅れたことと、爆発的患者数増加で、医師、看護師、その他医療従事者の感染などにより、千葉大では2800名中109名( 4 %)の職員が欠勤したといいます。

医療逼迫のもう一つの原因が➊病床確保と運用です。これは政治家の発言では必ず出てきてはおりますが、実体を伴っていません。日本の病院数、病床数は世界で最も多いのですが、1病院当たりの医師数は先進7か国中最も少なく、看護師数も最も少ないのです。小さい病院が多いことも影響しています。では大病院が総動員体制で入院させているかと言えば、そうでもありません。❷国立大学病院で積極的に入院治療しているのはごく僅かで、公立・公的病院の4割が入院させていません。中小の私的病院が軽快者、無症状者をどんどん受け入れてくれればいいのですが、現実問題として感染/非感染のゾーニング(接触しないよう分離)やスタッフの問題、さらに重症化した時の大病院への転送困難などで、ごく限られた病院しかできません。➌患者の流れが未だに確立していません。国の方針として自宅療養を積極的に進めていますが、第5波の時にも問題化していたのに、患者数が倍増しても対策は取っておらず、重症化しても救急車にて運び込む病院がなく死亡した人が出ました。患者コントロールは国、自治体の責任です。

次に検査体制の問題です。❹発熱外来の大混雑で屋外の検査となり炎天下で検査待ちして熱中症患者が発生しました。政府はいたずらに患者数を増やすだけという理屈の通らない理由で、❺一貫してPCR検査を嫌っております。

患者数激増に対応するため、疑わしい時には抗原検査キットを薬局で購入し、❻自己検査で診断するような方針を打ち出しました。問題噴出です。先ずキットの品不足です。十分量用意してあるといいながら現場では足りていません。次に陽性となった場合の受け皿が用意されていません。重症化する可能性を持ちながら、入院先の補償なく自宅療養する不安を強いています。第3に、症状が無かったり軽かったりすれば、出来れば入院したくないのが人情です。コロナ患者は社会的にも阻害されるため、陽性だったことは伏せておこうという人が続出する可能性があり、このような疫病(伝染病)においては、あってはならないことです。総数把握の上からもザルの目となって抜け落ちてしまいます。なお、唾液による抗原検査は、経験から使い物にならないものと思います。薬局では市販しておりません。7月時点ではぬぐい液検査キットは入手出来ませんでした。

最大の問題は疾病対策の基本である❼『感染者総数把握』を放棄することです。首相がこの放棄を断念するよう、また最終判断を自治体に丸投げするなど、全く信じられません。パンデミックな大疫病の最中に、患者数が掴めないなどという事態は三流国、四流国と見做されます。日本政府は戦後に目標とした科学立国を否定してしまうのでしょうか。なぜこうも非科学的、否反科学的政策を進めるのでしょうか。私は断固反対を叫びます。医療逼迫が原因だから、医師の負担軽減のためという理由も筋が通りません。医師の一部には全数把握放棄を主張する医師もいますが、彼らは公衆衛生学、疫学を再勉強すべきです。

何時もながら畏友黒木博士に教わった[COVID-19 TK-File(42)]現在の➑「新型コロナウィルス感染症発生届」を見てみると、届け出時に不要な項目、詳し過ぎて手間と時間の無駄の項目、感染原因、感染経路など分からない項目、1回目からのワクチン接種年月日など、患者、医師ともに大きな負担になっていることが分かります。黒木氏が提案しているような、簡略化、デジタル化で、届出書記載の手間は数分の一になると思われます。